ドッペルゲンガーの初仕事 10
マリア・ド・デニム伯爵令嬢の容態は、直ぐに回復するような状態ではなかった。簡単に回復してくれる物じゃない。入院加療を必要にするほどやばかったと思う。救急車を呼んで、直ぐに病院から帰ってくることが出来るわけが無い。兎に角無理はさせられないだろう。
まあ、だからといって、こんな処に立ち往生しているわけにも行かないかな。兎に角後暫くは、子の涼しいところで休ませる必要があるかも知れない。ただ、馬車の中に座っているのはしんどいかも知れない。馬車の中は、外と比べると暑いのだから。狭い空間に閉じ込められての移動は、弱った彼女には厳しいかも知れない。なんだかんだ言っても、誘拐事件からあまり時間が経っていないかったのが、日照神に取憑かれた要因の一つだと思う。十二歳の子供には、精神的ストレスは相当大きかったのだろう。
あたしは、マリア・ド・デニム伯爵令嬢に同情的になっていた。本来なら外に出ることが怖くなってしまっても、彼女を責められない。引きこもりになっていたって不思議でも何でも無いだろうし。そんな状態にもかかわらず、自分からこの救援部隊に参加する事を決めたのだそうだ。
「私は大丈夫だから。しっぱつしましょう」
焦点の合っていない瞳を、ドリーさんに向けて、マリア・ド・デニム伯爵令嬢が言った。その声は弱々しくて、あきらかに無理をしていますという感じである。
「まだ無理だね。今無理すれば、また足止めになっちまうよ。とりあえずもう少し良くなるまで、ゆっくり休んだ方が良い」
あたしは彼女の首筋を冷やしている、タオルを取り替えながら言った。実際、まだ熱があるのだから、あまり無理をして欲しくなかった。このあたしの中途半端な知識では、これ以上の事をしてあげることは出来ない。
不思議なことだけれど、この子と話していると心の底に、情のような物が芽生えてきていることを、あたしは感じ始めていた。中の人的には、ゲームのオープニングシーンで退場してしまった不幸なモブキャラに過ぎないのだけれど。血なのかな。あたしの心の奥底に暖かい何かが芽生えてきている。
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