ドッペルゲンガーの初仕事 9
まだ十二歳の子供なのだから、そんなに責任を感じなくても、良いんじゃないかと、あたしは思う。勿論あたしも十二歳だから、甘えさせて貰える年頃だと思う。今思えば、前世にあたしは十七歳にも成って、周りの人に甘えていた。その挙げ句に死んでしまったのだけど。
この国では、十二歳で働いている子の方が多いのだけど。あたしも含めて貧しいからだけれど。貴族階級にご令嬢にも、甘えは許されないのだろうか。
こんな疑問が、あたしの胸の中に浮かび上がってくる。あまりにも、前世の日本の常識と掛け離れすぎていて、戸惑うことが多かった。小さな子供でも、大人に混じって仕事をしている。皆それが当たり前になっている。
貴族の御令嬢でも、それは全く変りが無い。彼女は感じている、責任は十二歳の子供には重すぎるのではないだろうか。嫌な子ではあるけれど、それだけは同情できることかなと、あたしは思った。
「でも、御母様の期待を裏切りたくないのですもの」
マリア・ド・デニム伯爵令嬢の顔は、焦りに歪んでいる。その瞳は熱に浮かされている、病人のそれだ。彼女の額に、じんわりと汗が浮かんでいる。
「まだマリア様を動かせませんか?」
ドリーさんが、あたしの顔を覗き込見ながらたずねてくる。心配そうな表情に、だいぶ汗が浮かんでいる。彼女も休んだ方が良いかもしれない。
「まだ無理をさせることは出来ませんよ」
「お嬢様は運良く意識があったから、経口飲料水を飲ませることが出来ましたけれど、あれ以上悪くなっていたら、大変なことに成っていたかも知れませんよ」
ドリーさんがあたしの言葉を聴くと、日照神に取り殺される一歩手前だったことに気付いたらしい。かなりやばかったと思う。
あたしは、在れば救急車を呼びたかった。お医者さんが居て欲しかった。
あたしに出来ることは、応急処置しかなかったし。お願いしたい。
お疲れ様です。




