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山猫は月夜に笑う 呪われた双子の悪役令嬢に転生しちゃったよ  作者: あの1号


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雇用契約

読んでいただきありがとう。

ブックマークありがとうございます。


 父ちゃんの額に青筋が走り、眉間には深い皺が寄っている。

 元々、父ちゃんはデニム家に対して、憎しみを抱いている。あたしは、ゲームのオープニングシーンの中で、父ちゃんがデニム家の人間に対して、憎悪をたぎらせていることは知っている。なぜなのか判らないけれど、本当の事を話してはくれなかった。

 でも、あたしは父ちゃんの気持ちが、良い方になるように誘導することは出来ていると思う。だから、ゲームの展開みたいに、自爆テロみたいな事には成らないでくれると信じたい。入れ替わりは阻止できたし、マリア・ド・デニム伯爵令嬢は死んでいないのだから、大きく展開は変わっているはず。彼女がいると言うことは、あたしはナーラダのリコのままでいられるということ。少なくとも、悪役令嬢には成らなくてすむはず。

 父ちゃんは、ジャスミン・ダーリンさんから渡された書類を熟読すると、あたしに読むように言って、其れを渡してくる。判りにくい言葉の羅列で、こちらを煙に巻こうとしてるのかと思ったが、雇用契約書としてはまっとうな物だ。給金もそれなりに良い条件に思える。

 平民相手にする契約内容ではない。対等な関係を築こうとしているようには見受けられる。十二歳の未成年者相手であることを除くなら。

 しかも、付帯条件として、父ちゃんがあたしの護衛となることが書き込んである。父ちゃんの雇用に関する雇用契約書も一緒なので、これだけの分厚い物になっている。

 二人のもらえる給金は小隊長並みに良い物だった。ただ、あくまでも命令であり。拒否権は存在していない。

 貴族らしい代物ではあるかな。

 あたしはその書類を読みながら、伯爵夫人の表情を盗み見た。驚いたような顔をして、書類に目を通しているあたしを見詰めている。この国の平民の識字率は大変低い物になっている。大概は自分で、書類を読まずに、第三者に読んでもらうことで、大事なことを決めることが多かった。

「貴方は文字が読めるのですか?」

 伯爵夫人は、何を今更と言いたくなることを聞いてくる。ダーリンさんにはそのことを知らせてあったはずだけれど、かなり舐めてくれていたみたい。

 この世界に来てからは、村の賢者様の補佐を務めるくらいは出来ているのだ。村長から頼まれて、徴税官に渡す書類を作ることを任されていたりするので、役所の書類を見慣れているのだ。

 元々、伯爵令嬢と入れ替わるためには、これくらいは出来ないとだめでしょ。



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