ドッペルゲンガーの初仕事 8
でも、これ以上あたしの出来ることは無い。何故なら、前世でもこれ以上のことを経験していないし。あとは彼女の体力に期待して、神様に祈ることしか出来ない。
「ありがと。少し楽になったわ」
マリア・ド・デニム伯爵令嬢が、あたしに話しかけてきた。その声はかなり弱っていたけれど、さっきよりは良くなってきたみたいだ。
額には薄らとだけれど、汗がにじみ出してきている。ちゃんと汗を掛けるようになってきているのだろうか。意識はあったし、それほど悪かったわけではなかったのかな。一寸ホッとする。
「こんに酷く成るまで、何で休憩しなかった」
「馬車に乗っているだけだったし。こんなに急に気分が悪くなるとは思わなかったのよ」
確かにそう思うのも解る気がする。実際若いのだから、これぐらい無理できないわけがないと、思ってしまうのも解る。ただこの間、誘拐されたばかりで、精神的にも肉体的にも、大きなダメージになっていたはずで。無理してはいけなかった。
「もう大丈夫だから、直ぐに出発しましょう」
マリア・ド・デニム伯爵令嬢は何をこんなに焦っているのか、まだ熱があるのに起きようとした。あたしは、彼女の肩に手を置くと、起き上がろうとするのを押しとどめる。まだ身体に力が戻ってきていないのか、起き上がれるわけもなく。また横になってしまう。
「無理をしたところで、まだ動けないでしょう。あと二時間は休んでいた方が良い」
「でも、そんなに休んでいたら、暗くなっちゃうでしょう。私は領主の娘として、義務を果たさなければいけないのよ」
まだ十二歳の娘なのに、立派な貴族として振る舞おうとしている。それは賞賛される物かも知れないけれど。あたしは気負いすぎだと思う。まだ彼女は、母親に庇われていて良い歳だと思う。
「そんなこと考えているから、皆の足を引っ張ってしまうんだよ。いくら焦ったって、あんたを置いて部隊の人は出発できないんだから。まずは休んで、少しでも動けるようになることが先決だと思うな」
お疲れ様です。




