ドッペルゲンガーの初仕事 6
兵隊さんが、荷台から幕屋のための幕を引っ張り出してきてくれた。彼らはここに幕屋を張ろうかと言ってくれたけれど。それは時間が掛りすぎるので、丁寧に断った。簡単に、木の上から幕を垂らして貰う。
単に男どもから視線を遮りたいだけで、風まで遮りたいわけではない。風はウエルカムなのだ。
「誰かドレスを脱がしたいのだけど、手伝ってくれないかな」
「私がしますよ」
と、ドリーさんが幕の中に入ってくる。彼女は意外に力持ちで、父ちゃんから水の入った桶を、受け取って持ってきてくれた。
目隠しの外で、兵隊さん達の雑談が聞こえる。たわいのない馬鹿話で、危機感を分散しようとしているのだろう。
マリア・ド・デニム伯爵令嬢が、日照神に取憑かれたために、予定道理の行軍ができないからと言って、いらいらする者は居ないみたいである。
実際、兵隊さんが周りでいらいらしながら居たところで、何の役にも立たないのは本当のことだ。それならば、動けない時間を利用して、休んだ方が良いに決まっている。緊張してがむしゃらに遣ったからと言って、良い仕事が出来るわけでは無い。
「済みません。首筋と脇の下と、太股の付け根をタオルで冷やしてあげたいのですが、あたしにはこのドレスの構造が解らないんです。宜しくお願します」
「そういえば、貴方は村娘だったわね。ドレスに触れたこともなかったわね」
ドリーさんはそう言うと、なんとも言えない笑顔を作った。それは苦笑とも違う物で、好意が籠もっているようにも見える、不思議な笑顔だった。
ドリーさんの手さばきは確りした物で、あれよあれよという間に、マリア・ド・デニム伯爵令嬢の着ていたドレスが脱がされる。ぐったりしている人間の服を脱がすのは、かなり難しい物なのだけど。さすがはドリーさんだと、あたしは思う。こんな真似あたしにゃ出来ない。
脱がされる側の協力が得られない状況で、人の服を脱がすなんて事は難易度の高いことだと思う。だから、あたしはメイドさん達の協力を期待したのである。
お疲れ様です。




