ドッペルゲンガーの初仕事 2
はたしてマリア・ド・デニム伯爵令嬢が寝かされていたのは、馬車の側の草むらを刈り取ってつくられた空き地だった。其処に上等な布を広げて、休めるように簡易な寝台を作っている。彼女の頭上には、大きな落葉樹の影が広がっている。日照神に取憑かれている者に対する対処としては、間違って無いけど、ここまで酷くなってしまったら。ただ休ませているだけでは駄目かも知れない。
本当なら病院に連れて行った方が良いのだけれど、この世界にはちゃんとした医療機関なんて無い。勿論救急車なんて無い。見た限り救急車を呼んだ方が良い状態だと言うことが解る。それくらいは、今のあたしにも解る。側には医者もいないし。
日照神に取憑かれたときの対処法は、とりあえず涼しい場所で休ませる。出来れば冷たい水を飲ませる事だけだけだった。手当てが遅れれば、日照神に取憑かれただけでも死んでしまったりする。真逆とは思うけれど、物語の強制力が働いているんじゃ無いでしょうね。
せっかくマリア・ド・デニム伯爵令嬢の命を助けて、悪役令嬢の運命から逃れたというのに、この子にあっさり死なれたら、あたしの苦労は台無しになってしまう。こんな処で彼女に、死なれるわけに行かないのだ。
「どりーさん。お嬢様には意識がありますか?」
あたしは馬を貸してくれた、兵隊さんがこちらに向かってきたので。馬から下りて彼女に尋ねた。
「まだ意識はあるわ。少しだけ水を飲ませることは出来たけど、一行に状態が良くならないのよ」
意識があるのなら、まだやれる事があるかも知れない。
あたしは馬の背にくくりつけていた荷物袋から、水袋を取り出しながらドリーさんに言った。
「砂糖と塩を用意して下さい。水だけよりはましな方法をあたしは知っています」
水袋に残っている水の方が、第二次救援部隊の荷台で太陽に、さらされていた水よりは冷たいはずで、たぶん役に立つだろう。
「父ちゃんを呼んでくれないかな」
父ちゃんが持っている水袋の中にも、かなり冷たい水が残っていたはずで、それを使わせて貰おう。兎に角冷やさないと死んじゃうかも知れない。せっかく助けたのだから、こんな処で死なれたくは無かった。
窓の外は雨が降っています。明日は真っ白かも知れませんが。
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