一寸休憩 5
父ちゃんも帰ってきて、汲んできてくれた水を鍋に入れると、良い匂いがあたりに立ちこめてくる。此れで香辛料でもあればもっと旨そうな匂いになるのだけれど。残念ながら、そういったお高い物は手に入れにくいのだ。せめて胡椒か大蒜が欲しいところだけれど。今のところは仕方が無い。
父ちゃんはあたしに汲んできた水袋を預けると、せっせと乗ってきた馬たちの世話を為ている。だいぶ酷使してしまったから、それなりに労っておかないと、いざって言うときに言うことを聞いてくれなくなるかも知れないから、馬の世話をするのだそうだ。
「父ちゃん。飯の支度が出来たよ。速く食べちまおうよ」
できたてのスープを、三つの木のカップに取り分ける。スプーンなんて上等な物など無いので、あたしらはパンをスープに浸して食べる。パンが水分を吸って、良いあんばいに食えるようになるのだ。まあ最後は、カップに口を付けて飲み干す形になるかな。だいたい平民の食事なんて言う物は、おおむねこんな感じなのである。
「ん。おう」
あたしの側まで来ると、父ちゃんはどっかりと腰を地べたに腰を下ろす。少し汗臭い。あるのは汗臭さだけだ。まだ加齢臭は嗅いだことが無い。
リタは最初から、あたしの側に座って、スープができあがるのを眺めていた。できあがると、真っ先に手を出してきたけれど、一応順番という物があるのだ。少なくとも、先にスープに口を付けて良いのは、父ちゃんだとあたしは思う。何しろ一番仕事を為ているのは、父ちゃんなのだから。
死んだ母ちゃんに教わった家族の決まり事であり。此れを守ることが家族を成り立たせる秘訣だと聞いている。とは言っても、家族の中で最も決定権を持っていたのは母ちゃんだったことを、あたしは知っている。
良い感じに父ちゃんを労いながら、上手感じに操縦していた。なんだかんだ言っても、家族の中の光は女なのだ。女がいなければ、其処に安らぎも笑いも無くなってしまう物だ。そう言うことを、母ちゃんに教えて貰った。
お疲れ様です。




