野犬の群れ 6
「まあ、何とか切り抜けたな」
あたしに追い着いてきた父ちゃんが,声を掛けてきた。少しばかり頬が綻んでいる。リタは未だに衝撃から立ち直ってきていない。まだ彼女はちっちゃいのだから、其れは仕方が無いことだと思う。
あたしは気の毒に思って、彼女の涙でくちゃくちゃになった顔を覗き込む。犬との格闘の間中、悲鳴を上げ続けていたのは聞こえていた。其れは怖い光景だよね。トラウマに成らなければ良いのだけれど。何しろこの世界には心療内科的物は全くないのだから。あるとすれば、教会の司祭様に懺悔するぐらいしか方法が無い。
「で、何匹仕留めたの?」
と、あたしは何気なく尋ねる。全滅させては居ないだろうと思うけど、それでもかなりの数に成っているだろうと予想する。
「ん。五匹と言ったところか。中々賢い連中だよ」
「手、事は野犬の駆除の依頼があるかも知れないね」
あたしは何時ものつもりで、此れからの野犬どもの捕獲計画を考え始めて、思わず苦笑を浮かべた。あたしも父ちゃんも今は、猟師じゃ無くなっている事に気付いた。
この森には居なかった野犬どもだ、どこから流れてきたか知らないが、人間のことを知っている連中は、危険な獣の群れに成る。多く繁殖してしまえば、街道を旅する者にとって、脅威になりかねない。それでも追いはぎよりましだけれども。
そういった危険な者を排除するのも、あたしら猟師の仕事に偶に、入ることも無くはない。一応は危険な獣のことだぞ。追いはぎのような犯罪者に関しては、出くわしたら対処する程度に止めている。誤解の無いように言ってお行くけれど、あたしはまだ人を殺した事は無い。
そういった荒事に関しては、父ちゃんとニックが主に担当してくれていた。何が悲しくて、十二歳から人殺しには成りたくも無い。前世の記憶があるあたしにとって、人の命の重みはこの世界の常識とかけ離れている。なんだかんだ言っても、日本という国は平和な場所だったのである。
あたしは、前世が平和で良いあんばいに緩かったんだなと感じている。戻れるのなら、もう一度あちらに戻りたいと思ったりしているけれど、無理な相談かも知れないなとも思う。また死んだら、あちらに生まれることが出来るとも限らないので、試しに死んでみる勇気は無い。
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