野犬の群れ 2
父ちゃんの乗る馬から少しずつ放されて行く。同じ駆足で乗り手の腕前で差が開いてくる。思い切って襲歩に切り替えれば、引き離す事も出来るかも知れないが、今のあたしには心許ない気がする。その上この森の中の道は、決してまっすぐでは無く大きな木を迂回するように為て、くねくねと曲がっている。
駆足ですら危険が伴う走り方なのだ。うっかりすると落馬の危険のある状態で、この逃走劇が長引けば、あたしの落馬の可能性が次第に上がって行く。
後を追想している野犬は、既に十匹にまで増えてきた。いずれ馬に攻撃を仕掛けてくる奴も出てくるだろう。完全にあたし舐められてる。面白くは無いが、だからと言って此方から攻撃することも出来ない。うっかりそんな事をすれば、落馬の危険がある。馬上で両手を放して弓を撃つなんて、今のあたしには不可能な芸当なのだ。
今思えば、前世のテレビで何の気なしに見ていた。流鏑馬って技術はとんでもない芸当なのだと思う。
「襲歩まで速度を上げられるか?」
と、父ちゃんがあたしに聞いてきた。
「一寸無理」
あたしは涙目になりながら、父ちゃんに答える。こんなにくねくねした森の中で、馬を全力疾走させるなんて、今のあたしの技術ではまだ無理だ。何も障害物の無い場所ならいざ知らず、落馬してしまう。
「判った。このまま追いかけっこを為ていると、此方が先に参ってしまうだろう。自分は此れから先行して、襲撃場所を設定するから。自分の口笛を聞いたら、わずかでも良いから襲歩に切り替えろ」
父ちゃんの顔がマジに成っている。無茶かも知れないが、其れしかこの状況から脱出することは出来ないのかも知れない。たぶん出来ないんだろうな。
野犬どもに先手を取られているから、あたしらは逃げのいっ手しか無いのだ。この借りは必ず返してやるぞ。心の中で三下風に吠えてみる。
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