野犬の群れ
あたしは乗馬に対して、少し速度を上げるように指示する。前を走っている父ちゃんも、其れは一緒だ。森に入ると、夏の光は木々に遮られて、薄暗くなって来た。湿気の高い空気からは、森独特の匂いがする。少し前のに第二救援隊が通っているので、轍の跡が足下に何本も残されている。邪魔になるだろう枝も伐採されているので、走るのにそれほど危険は感じない。
ちなみに父ちゃんの前にちんまりと座っている、リタはかなり青い顔を為ている。ゆったりとした走りから、少しばかり速度を上げたから怖いのだろう。実はあたしも怖い。其れを馬に感ずかれないようにするのに、なけなしの勇気を総動員している。馬は賢いので、既に気付かれているかも知れないけれど、やせ我慢でも遣って見せなければ、きっと馬鹿にされる。
全力で馬を走らせれば、この森を小一時間で抜けることが出来る。其れは判っているのだけれど、その小一時間もあたしが持たない。勿論馬にそんなには疾走を続けさせるわけにはいかない。当然のことながら、父ちゃんの前にいるリタも持つわけが無い。
実はあたしの目には、かなりの数の野犬がちらちらと見えていた。その表情からは、かなり飢えていることが窺える。普段なら、馬に乗った人間なんか狙わないだろう。走っていれば尚更だ。
ただ、落馬すれば話は別と言うことだろうか。奴ら狙いを定めたみたいだ。狙い目はあたしかな。父ちゃんと比べれば、あたしの乗馬姿勢はあまり宜しくは無い。馬に乗るのが不慣れであることは、犬にも解るのだろう。この群れのボスは人間にかわれていた事があるんだろうな。
駆除すべき対象かも知れないが、今のところ、この森を抜けるのが先決だ。奴ら、以前あたしがこの森に、来たときには居なかった。今回の嵐でやって来たのだろう。この森が気に入れば住み着くかも知れない。其れは少々宜しくない。
犬たちが道に姿を現した。本格的に追いかけてくる。今回狩られるのはあたしらの方だ。威嚇のつもりか、盛大に吠え立ててくる。可愛いわんちゃんのイメージとはほど遠い。中型犬がほとんどで、毛の色は茶色が多い。あたしが把握しているのは十匹と言ったところだろうか。落馬待ちと言ったところか。
直接馬に攻撃を仕掛けないところを見ると、まだ大丈夫だろう。あたしは馬に乗るだけで精一杯なのだ。手綱から手を放すなんて、考える事も出来ない。其れこそ落馬してしまう。 奴らの思うつぼだ。
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