其れなりには乗馬が出来る。6
泥濘んだ道を馬の歩みを遅めに為ながら、あたしと父ちゃんはリオレル村へ向かって行く。夏の強烈な太陽の日差しが、あたしの肌を焼いてくれる。この世界には日焼け止めみたいな物は無いので、長袖長ズボンに大きな帽子という格好になっている。基本的には、旅に出るのはだいたいこの格好を為ている。
馬に乗るためには、この格好の方が好都合なのである。其れと、出来るだけ日焼けは避けたい。こう見えても、一応女の子だし。マリア・ド・デニム伯爵令嬢に少しでも似させておかなければならない。日焼けで真っ黒では遠目でも見分けが付いてしまう。最も今更ではあるのだけれど。既に日焼けしまくっていたりするから。
ナーラダ村を離れること二時間。だいぶ日が陰ってきた。
そして、水浸しになった麦畑の縁を越えて、森の中に道が向かって行く頃。少し道が上り坂になってきた。すると足下が乾いてくる。この森には水害の影響はなかったのかも知れない。このあたりの生物たちの避難場所になっているらしく。野生動物の気配がそこかしこに感じられる。
猟師としてのあたしは、結構テンションが上がってくる。其れと同時に、この森の危険性に対しても思いを巡らせる。
「この森はだいぶ危険になってるよね」
「だな。急いで森を出た方が良いかもしれんな。奴らにとって、格好の獲物に見えているだろうからな」
飢えた動物にとっては、馬に乗った人間は食い物にしか見えないかも知れない。これだけの大きさの動物を襲うには、大型肉食獣でなければ出来ないが。この森には人間の味を知っている生き物が、居たはずなのだ。人間の弱さを熟知している獣が。
時には人間の群れにいながら、立場が変われば厄介きわまりない驚異と変わりうる生き物だ。
野犬の群れは時に脅威となり得る。人間の行動を知り尽くしている彼らは、自分たちより弱い人間をよく知っている。
しかもこの森に住まう連中は、人間の肉の味を知っている。鉄の匂いを帯びていない人間は、ウサギよりも狩りやすい生き物だった。
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