其れなりには乗馬が出来る。3
あたしとリタが、弁当以外の旅支度が出来た頃。父ちゃんとアガサおばちゃんが、二人連れだってやって来た。久しぶりにおばちゃんの顔に、言い笑顔が浮かんでいる。皆、御領主様が村の衆を見捨てないことが解って、ホッとしているのだろう。出ないと皆、不安で仕方が無かっただろう。
マリア・ド・デニム伯爵令嬢が来た事だけでも、村の衆にとっては有難いことだったのだろう。前世の記憶にあった、被災地にやって来てくれた権力者が村を守ると約束してくれたのだから、安心もするのかも知れない。顔を見せると言う事が大事なのかも知れない。
「こんにちは」
と、あたしはアガサおばちゃんに声を掛けた。内心は弁当をわざわざ持ってこなくても、父ちゃんに持たせれば良いのにって思いながら。
「こんにちは。はい、此れ頼まれていたお弁当」
アガサおばちゃんは両手に抱えていた、麻袋をあたしに渡してくる。かなり重たい。そして、焼きたてのパンの匂いがする。頼んだものとだいぶ内容が違うみたいなので、あたしの表情は曇ったに違いない。少し内容が良いものに変わっているみたいで、無理をしたのではないかと思った。
第一今の村で、パンを焼く為には、村長の屋敷の石窯を使わなければ焼けないはずで、今芋ばかり食べている村の衆には申し訳ない。なけなしの干し肉も入っていた。あたしと父ちゃんが取ってきた狸の肉ではあるけれど。今となっては大事なタンパク源だ。
「内容がだいぶ違うみたいなんですけれど」
あたしの側に寄ってきた、リタが袋に顔を押しつけて、パンの香ばしい香りを嗅いでいた。彼女は嬉しそうにしている。弁当にしては豪華にものに、今にも食べたそうにしている。
「なぁに、あんたにはずいぶん世話になったみたいだしね。村の女衆からのお礼だよ」
と、アガサおばちゃんが言った。そして、豪快な笑い声を上げる。
「そっか。ありがと」
「無事に帰っておいで。其れと、御領主様の処の仕事が嫌になったら、直ぐ帰っておいで。あんたなら、村中で歓迎するからさ」
あたしは村の衆に嫌われていなかったんだな。そう感じられて、ちょっぴり嬉しかった。
一日休んでしまいましたが。




