我儘娘のお願い 8
「食わしているだけじゃ駄目なのは解っているだろう。おまえだって親なんだから」
「今の村の現状だと、各人が飢えないようにするだけでめいっぱいだった」
村長が情けない顔をして応えた。その表情からは、解っていても出来ないことが覗わされる。
「だいたい、キャサリンは村の女衆に嫌われていたからな。その娘もあまり可愛らしい性格でもない。面倒見るって言ってくれる者が居なかったんだ」
ハーケンは溜息をついた。村長の言っている事も判る。今は有事なのだ。村として出来ることはそれほど多くない。
運良く領主様が、物の解る人だったから、この程度の被害で済んでいる。最悪は飢える者がでて、疫病がはやり出す。何故そうなるのかは、解らなのだけれど、水害の後には疫病がはやる。経験則的な物ではあるが、其れを心配しなければならないだろう。
「とりあえずリタを連れて行くことにする。家の娘は言いだしたら聞かないからな」
「本音を言えば。助かる。リコちゃんには苦労を掛けるけど、あの娘のことだけでもなくなるのは有難い」
「おい。村長がそれを言っちゃ駄目だろう。リタだって村の子供には違いないだろうさ」
ハーケンは村長の頭を軽く小突く。
「解っているんだが、俺も一杯一杯なんだ。多少は同情してくれても良いだろう」
「其れがあんたの仕事だろう」
「好きで村長なんて遣ってるわけじゃない。親父の後を継いだだけだからな」
彼は疲れ切った顔を歪ませて言った。昔からの友人だが、もう少し気楽に生きたい奴だったのは知っている。職業選択の自由はあまりない。まあ仕事があるだけましと言えばましなのだが。
水害による畑の被害によっては、村にとっては生き死にに関わるほどの大事になる。小麦が捕れなければ、冬を越す事が出来ないかも知れないのである。
「今の領主様は、真面らしいじゃないか。何とかして下さるだろう」
「御前は領主様の処に、雇われたから良いだろうが。村の衆はそうはいかないんだ」
本当に気苦労の絶えない御仁である。
読んでくれてありがとう。




