我儘娘のお願い 7
「あいつは領主様の処に勤める事が決まってる。あれが決めた事だ。自分が何を言っても気は変わらないだろう。誰に似たんだか、言いだしたら聞かないからな」
ハーケンは苦笑いを浮かべた。
「息子が気に掛けているのは知っているだろう。一緒になって村で暮らした方が良いと思うが」
と、村長が言うけれど。こいつは上手いこと、村に便利な人材を残したいだけだ。
今のところリコを誰かに遣るつもりはない。まだ子供なのに、貴族でもない娘に、今から結婚相手を決めてしまう事には、心から反対したい。何よりも娘が望まないことを、ハーケンは遣りたくなかった。経てな事をすると、嫌われてしまうではないか。それだけは御免被るのだ。
実際、デニム伯爵家に雇われることは、本当は反対したいのである。リコの姉妹を助けるのだって、彼女が強く主張したから仕方なく協力したのである。今のハーケンにとっては、娘のお願いがすべてなのである。でなければ、あんな危ない事を娘に遣らせはしなかった。
そして、厄介なことにデニム伯爵夫人に気付かれていることだ。顔がそっくりだから、気付かない方が可笑しいのだけれど。報告書には、森で捨てたことになっている。実際、間違いなく捨てたのだ。
あの時、ハーケンの後を付いて来ていた間者にも、命令通りに森の奥深くに、泣いている赤ん坊を捨てているところを、目撃させている。間者が返る頃を見計らって、森に捨てられていた赤ん坊を拾ったことは報告していない。ちょうどハーケンの子供が、生まれる時期と重なっていたので、生まれてきた子供として布告しておいたのだ。
見た目がマリア・ド・デニム伯爵令嬢にそっくりだとしても、書類上はハーケンの子供である。本当はデニム家の娘だとしても、一度は捨てた子供だ。返すいわれはないだろう。自分の我儘には違いないが、今となっては大事な家族になってしまっているのだ。外聞を気にして、子供を捨てるような連中に遣るわけにはいかない。
「まだ早いな。おまえの息子だって、まだ、餓鬼だろう」
「とは言っても、御領主様に遣るよりは良いと思うが」
村長は、まだ諦めては居ない。
ハーケンに言わせれば、おまえの息子ではあのじゃじゃ馬の相手にもならない。もしも、リコが男として選んだのなら、ちょっぴり考えて遣らんでもないけれど。まず無理だろう。
「そんなことよりも。リコが又お願いしてきた。リタを連れて行きたいと言ってきた。おまえ達が、ちゃんと面倒見ていないから、リコがそれに気付いて、面倒見ると言い出してしまった。どう責任取ってくれる」
「責任って。ちゃんと配給は遣っていたはずだ」
読んでくれてありがとうございます。




