我儘娘のお願い 6
手作りの机に向かい、村長が何通かの書類を制作しているところだった。今回の水害で被った物にかんする物である事は明らかだった。机の上には、村の中で起こった被害にかんする報告書が散乱している。
「なあ、リコちゃんを置いてってくれないかな。わざわざ領主様の処へやんなくても良いだろう」
村長がハーケンに、視線を向けながら言った。実際リコは村長の代わりに、難解な資料を読み込んだ挙げ句、的確な判断をする怖い12歳だった。少なくとも、村の事に関する限り、下手な大人よりも仕事が出来た。デニム伯爵夫人の血を引いているのは、伊達ではないのかも知れない。読み書き計算が出来る人材は、ナーラダ村周辺でも、数えるほどしか居なかった。それだけでも貴重な上、かなり有意義な知恵をだす。
実際、弓の工夫や今回の袋に土を詰める工夫は、目を見張る物がある。ハーケンが、リコに言われるがままに、弓を作ったところ。普通の弓より射程が二倍になった。それ以来、彼はリコの言う事を聴くようになった。とにかく的を外さないのだ。
領主様に、出す書類だけでも今回の一見で、既に倍増している。リコが居ればその書類仕事だけでも、こなして貰えると村長はふんでいるのだ。彼女に変わってくれる者は、この屋敷の中には居ない。ちなみに奥方様は、地味な書類仕事には全く興味を示さない。そんなことより、村の衆と一緒に、堤防工事に行ってしまうだろう。
リコが読み書き計算を覚えるまでは、村長一人で事務仕事を遣っていたのである。学ぶより身体を動かす事の好きな女を、嫁に貰うのが悪いとハーケンは心の底から思っている。リコも小さいときは、遊び回る方が好きな娘だったけれど。母親を失ってから、何か考える事があったのか、賢者様から色々と教えを受けるようになった。
それからは、リコは妻のようでもあり。最高に可愛らしい娘になった。
悲しみに暮れる彼を見て、子供心に自分を支えてくれようとしているのかも知れない。そう思うと、彼にとっては何物にも代えられない宝物になったのである。
マリア・ド・デニム伯爵令嬢を助けたから、血のつながりのある母親と会うことになってしまったが、大事な家族を渡すつもりはない。勿論村長の処の餓鬼にも、遣るつもりはない。少なくとも、自分より強くならない限りやらない。
読んでくれてありがとう。




