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山猫は月夜に笑う 呪われた双子の悪役令嬢に転生しちゃったよ  作者: あの1号


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けだるい夕暮れ 2

 重たい疲れが、伸し掛かってくるようだ。軽く食事を摂ったら、速攻でベッドに潜り込みたい。寝る前に湯あみは欠かせないけれど、それすらもかっ飛ばして眠りたい。


 公務がまだ残っているから、そんな訳にも行かないけれど。ただ、馬車に揺られて移動して、街中を見学しただけなのに。此の疲れは何だろう。なんていうか、何んとも胃のあたりが重い気がする。こんなに若いのに、言いようのない疲労感が、あたしを捕まえて放して呉れなかった。


 乙女ゲームの設定でしか無いって、思っていた訳でも無いのだけれど。こうして、現実に戦争への下準備が着々と進行している。それを実感してしまうと、マリアの側で、見守るだけでは、何の役に立たない。あたしはこれから起ころうとしている事を、多分知っている。ぬけが多いし、大雑把ではあるけれど。少なくとも、此処に生きている人達よりは知っているんだ。


 それを説明する方法が分からないから、気持ちが滅入ってる。どこかに天才的な、軍師様はおらんかね。なんで、あたしみたいな出来の悪い不良を転生させたんだって、神様みたいな奴がいたら、文句の一つも言ってやりたい。


 ここには相談に乗ってくれそうな、人が一人もいない。何より、あたしの話は荒唐無稽な話でもあるから。これから起こることを、あたしが知っているなんて言ったって、誰も信じてくれはしない。


 あたしは見た目が、マリアにそっくりなだけの、餓鬼でしかないのだから。普通に、まともに相手なんかしないだろう。


「あなたたち、二人だけで何を話していたの」


 砦の中のお屋敷の廊下を歩きながら、侍女のジェシカ・ハウスマンさんが訊いてきた。何を心配しているのか、余計な事を話していないか確認したいのだろう。


 実は余計な事を話してしまいました、なんて口が裂けていも言えるわけない。いわゆる、彼女はお目付け役でもあり。デニム家の恥に成るような事をしないか、見張っている人なのだから。長い事、彼女とは時間を共有しているけれど。いまだに気の置けない関係を築けてい居ない。


 当然の事だけれど。彼女にこの話をして、信じてもらう事なんかできないだろう。もちろん、帝国は仮想敵国には違いないのだけれど。そういった事を知る立場にない事も分かっている。


「そうね。私たちの将来についてお話ししていたの」


 嘘じゃない。

「マリア様とはあの方は、仲良くお付き合いしておりましたが。マリア様は今のところ男性として、見てはいないはずです。余計な事はくれぐれも話さないようにしなさい。あなたは、単なる身代わりなのだから」

「そういう話をした覚えはありませんよ」


 この人に、これから起こるかもしれないことについて、話していましたなんて言えるわけない。攻略対象の一人の、レイの奴なら話せるだろうけれど。いまだ合流していないから、話す事なんか出来ないし。話したところで、どうにもならない事は判っている。


 誰かに話せば、ちょっとだけ気が楽になるだけで。何一つ良くなりはしない事は判っているんだ。


 この後は、着替えて公務としての、晩餐が始まる。たぶん疵まりで居心地の悪い食事会に成るだろう。正直、メイドとしての賄の方が良い。





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