食事会は踊る (エンデ・ガルバドス視点) 13
久しぶりに会った、マリアは随分と雰囲気が変わっていた。なにより、どこか厳しい視線とピンと張りのある声が、今までのマリアの印象と違う。目の前に座っている、マリアが真剣な様子で、ガルバ周辺で起こっている、事件について話している姿は、記憶の中にあるマリアとはうまく一致してくれない。まるで、彼女は別人に成ったような印象だ。
彼女が誘拐されたことは、父上の口で告げられた。暗に彼女との付き合いを諦める様に言い渡されたような気がして、いまだに父上の言葉が許せないでいる。聞けば、彼女は誘拐されたけれど。犯人に、穢される前に奪還されてもいる。何の問題にもならない。あの時の約束は、決して忘れる事のない良い思い出なのだから。
誘拐事件が起こり、マリアの中でどんな心境の変化があったのか、僕には想像する事も出来ない。それほど恐ろしい経験だったのだろう。だから、感じが違ってしまった。
幼かった頃の彼女は、何方かと言えば、夢見がちのお姫様の印象が強かった。それが、今僕の前で周辺国の内情に関する事を話す彼女は、鉄のスカートと揶揄されている、アリス・ド・デニム伯爵夫人そっくりに見える。
このマルーンが、隣国の王国に恭順することによって、帝国の侵略を免れた。さすがの帝国も、そこそこ大きな戦力を持つ、王国との戦端を開く準備は出来ていなかったらしく。マルーンの領土割譲で、話をまとめる事が出来たらしい。
そのあたりは、僕も家庭教師に説明された程度だったから、細かい内情についてはあまり知らない。実際には、どういう話し合いがあったかは表に出される事は無かった。
マリアの話だと、帝国はいまだに侵略を諦めていない。条約を交わしているにも関わらず。着々と破壊工作をしているっていう事だった。
「そういった行いを、しないように抗議するように、王に親書を送ったらどうだろうか」
僕の言葉に、彼女があきれたような顔をして、小さくため息をついた。
「そういった事の通じる人達なら、お母様も苦労していないでしょうね。何より、この間だって、領都に巣くっていた間者を一掃したばかりですのよ。皇帝にとって、他国の王族との約束など、紙切れの上でだけの事でしかないらしいですわ」
彼女は、僕にかなり近づいて、小声で話してくる。ほかの人間に聞かれることを、かなり警戒しているようすから。彼女が、こういう話を知っていることを、他人に知らせたくはないのだろう。
実際帝国の動きなど、この国境にこれほど近い場所にいても、知ることなど簡単には出来無い事だ。彼女はそれほど優秀な、目と耳を持っているのか、それとも単なる妄想の類なのか。
僕は彼女が、誘拐の時の心の疵で、心が病んだと思ってしまった。性格もその行動も、どこか彼女の母親の良く似てはいるけれど。昔の彼女は、そんな感じではなかったのだから。




