食事会は踊る 12
エンデ・ガルバドス君の表情は余り宜しくない。あたしが、マッキントッシュ卿の事を話し出す以前と、今とでは雲泥の差があった。だいぶ機嫌を損ねてしまったみたいで、あたしは申し訳ない気持ちになった。それでも、彼には理解してもらいたいと思う。
あたしとしては、このガルバが落ちるのは大変困る。ここが落ちるという事は、ナーラダ村もくちゃくちゃにされてしまう事が、明らかだったからだ。
あたしの気持ちとしては、マルーンの領民に対して、そんなに思い入れがある訳でも無い。でも、小さい頃から良くしてくれていた、村の衆や匿ってくれていた、隠里の連中が、ひどい目に遭うようになるのは嫌なんだ。中には、嫌な人も居るけれど。概ね大事な人たちだからさ。
「ガルバドス卿の気がかりな事も、伯爵様にも お話しする積りでおりますが。あなたにも心に留めてい置いて欲しいともいますから。此のままほおっておくと、最悪の状況の時に、ひどい裏切りを働くのではないか」
「それなら」
エンデ・ガルバドス君は、あたしの言葉の途中で、いきなり大きな声を上げた。これでは、内緒話に成らない。さすがに、砦の中で秘密の会話なんかできないから、ここでする事にしたのだけれど。一寸失敗だっただろうか。
あたりの視線が、あたしたちに集中して来る。もちろん、これまでもかなり視線が集まっていたのだけれど。何を如何思われたかも知れない。
「失礼」
エンデ・ガルバドス君は、、ちょっと顔をか絡めて、あたしに 頭を下げてくれる。
「君のお母様に話して、彼を如何にかすれば良いのではないか」
エンデ・ガルバドス君が、声を小さくして言ってくる。みんなには聞こえないだろうけれど。十分困ったちゃんには違いない。さすがに、もしかすると妹の良い人と、だれにも邪魔されない場所で、さしで話す事も出来ないし。話の出来るチャンスは今しか無かったから、この辺りは仕方が無い。
どこかのラノベの主人公なら、相手を信じさせるスキルなんか持っているのだろうけれど。昔のあたしは、それこそ不良少女だったから、エンデ・ガルバドス君みたいなタイプの人を信じさせることが難しい。側は悪役令嬢マリアの容姿をして居るけれど、いわゆる魅力に乏しいのよね。
「もしかすると、それでは間に合わないかもしれないから、こうしてあなたにお願いしているのよ」
あたしは彼に顔を寄せて、ほとんど唇が頬に触りそうなくらいにして囁く。頭の中では、昔の男におねだりをするこっぱずかしい自分の姿を思い受けべながら。
この遠征も、ガルバで最後に成る。後は帰るだけだ。
お屋敷に帰れば、あたしは一介のメイドに戻る。なんの権力も持っていないし。動いてくれる人間だって、全くいないんだ。これからは、レイの奴が王都に行かないで済むように、動かなければ成らない。何より、マリアの奴が普通に、学園に通えるように気を配らないといけない。
あたしも結構忙しいからさ。あのおっさんの事は君に任せたいんだ。




