食事会は踊る 11
「マリア様、君は随分変ったみたいだね。やはりあのことが影響しているのかな」
何か悲しそうに、あたしの顔を見詰めて、エンデ・ガルバドス君が言葉をこぼす。ひどく小さな声で、彼の地声より一オクターブ低い。変声期は既に過ぎているとはいえ、それでも若い男の声だったのに。一気に大人に成ってしまったような声だった。
やはり、マリアが誘拐された事は知られていたみた。これまで、お首にも出さなかったのは、もしかすると彼の優しさかも知れないね。
これまでも、あたしが彼女の身代わりをする、主な理由の一つが。此の興味本位に、聞いてくる不躾な質問から守るためでもある。たんに誘拐された事実もそうだけれど、その際に何をされてかが、気に成るところなんだと思う。年頃の女の子っとしては、人生が変わってしまうほどの、出来事だったからね。
貴族の間では、令嬢の処女性は大きな価値がある。如何したって、初めての男に成りたい願望があるから、結婚相手に処女を望む傾向にある。昔の頃だって、そういった傾向があったから、この世界にそういう考え方があっても不思議でも何でもない。
男どもは、自分の事は棚に上げて。女にそれを押し付けるんだ。当然、彼女の価値が傷付けられてもいる。誘拐された時点で、男どもの妄想の中で、あれやこれやが展開もしている。あたしが、それこそ可能な限り素早く助けてやったのに。如何したって、嫌な噂話は付いて回る。
あたしが、どうやって誘拐されるような事に成ったか、ゲームの中で語られていれば、誘拐自体を無かった事にしてやる事も出来ただろうけれど。描かれていたのは、誘拐している馬車を、あたし達が襲撃して、マリアの事を殺す処しか無かったから。
マリアの奴が誘拐される事件事態、無かった事には出来なかったんだよね。彼女を死なせる事は無かったけれど、心の傷や風聞まではどうする事も出来なかった。
「そうね。幸い、私はひどい目にあう前に、助け出されたけれど。それでも、大きな出来事でもあったから。それなりには、変わって仕舞ったかも知れないわね。昔のようには笑えなくもなってしまったし」
少し演技をかます。なるべく悲しそうに、表情筋をうまく調整してみせる。今後彼に会った時、マリアの奴がうまく付き合って行ける様に、この関係を維持しておこうと思う。
悪役令嬢マリアにとっては、如何でもいい関係だったかもしれないけれど。あたしとしては、彼にも生きていてもらいたいと言って思う。何しろ、村の衆を守って貰わなければ行けない人でもあるし。タイプじゃないけれど、このまま死なせる訳にも行かないだろうし。本気で、マリアの事が好きだってわかる気がするからね。




