食事会は踊る 7
この店での食事時間は、概ね三時間。貴族の食事時間としたら、ごく一般的な長さだ。使用人に成るとこの時間は、とてつもなく長い時間って事に成る。ゆっくり食っても、三十分は掛からずに終わらせるのが普通だ。でなければ、使用人の仕事を務める事なんかできない。この時間は非常に贅沢で、信じられらないくらいだ。
昼食の間に、必要な話し合いをするのが、お決まりに成っている。いつも一緒にいるマリアの奴は、何方かと言うと政治の話なんかまったくしない。話す事は、お洒落に関する話や奇麗な顔をしている異性の話ばかりだ。彼女に内容のあまりない話ばかりするのは何故かって、質問した事がある。その時に答えてくれと事が、そういった話をしている限り問題に成らないからだそうだ。
餓鬼には違いが無いのだけれど。そんな事をだれに仕込まれたんだか、そういったお貴族様みたいな考え方をする癖に、オッパイを大きくするのにはどうしたらいいかなんて相談に来るし。時々大人びた言動をしては、あたしを慌てさせる。
どこか不思議ちゃんなところのある妹なんだよね。実は、あの子もあたしの事をいまだにドッペルゲンガーって言ってくれているし。あながち間違ってはいないけど。悪役令嬢の方のあたしは、彼女をぬっ殺したわけだからね。
あたしがこれから話す事を信じるなら、とんでもない事だ。それでも真面目に聞いて貰いたい事だ。でなければ、何も出来ないまま、悲惨な虐殺にあう事に成る。この伯爵家には抗う力がある。だから、それを頭に入れておいて貰えば、もしかしたら未然に防ぐ事が出来るかもしれない。
可笑しな妄想を話していると思われるかもしれない。それでも、可能性だけでも、考慮していれば、もしもの時に最悪なことを、避けられるかもしれない。できる事なら、相手に諦めさせる事が出来るように、出来るかも知れない。絶対、諦めさせる様にしなければ成らないんだ。
この人の態度から、あたしがなんちゃってマリアだって事は、知らないんだって思うのね。あたしの正体を知らせずに、この話をすると、マリアのイメージが悪くなるかもしれない。それでも、今話しておいた方が良い気がする。すでに、マッキントッシュ卿に対しての、調略は進んでいるから。かなりやばい事に成ってるからね。
あたしは女優。そう自分に言い聞かせて、なるべく楽しそうな表情を作って、小声で領都ベレタで起こった事を話した。
「そんな事があったんだ。本当に、橋が落ちなくてよかった」
エンデ・ガルバドス君は、あまり驚いた様子を見せないまま、あたしの話に合図地を打つ。彼の表情から、このことは既に報告が言って居るのかもしれない。それなら、話が早いかも知れない。
「私は、帝国の調略の一環だと思って居るわ」
「それはどういう意味なんだい」
「長い時間をかけて、帝国は色々と仕掛けているの。もしかすると、ガルバドスの砦を落とす下準備なんじゃないかって思って居るのよ」
あたしは二年後に、領都ガルバが陥落する。しかも、奥様もろともこの砦の前に首をさらす事に成る。しかし、そのことを今のあたしが言う分けには行かない。




