食事会は踊る 6
この辺りで出される料理のほとんどが、肉と野菜の煮込み料理。それに、野菜スープに硬いパンが基本的なものだ。店の核によって、出される肉の良さが違っていたり。パンの製法が異なるのか、味の良しあしが変わったりする。
パンを焼く窯がある店の物は、かなり高級なものという事に成る。たいがいは、徴税に係る事なんで、決められたパン焼き窯で焼かれたものに成る。そうなると、決して旨いとは言えない代物に成るから。店に窯があるだけでも、その店は高級な店って事に成る。
個々の店で出しているパンは、焼き立てで味もそれなりに満足いくものに成っている。それでも、昔あたしが食っていたパンと比べることもできない、仕上がりだけれどもね。そのあたりは仕方が無いって、あたしは一人で納得している。
あたしが村で食っていたパンと比べれば、かなり上等なものであることには間違いなかった。お屋敷で出されるものよりは、一段劣るけれど。それでも大したもんだと思う。
何しろ、村の製粉機の性能は、かなり劣るものだったから。うっかりすると、パンの中に小石が混じっていたりしたからね。いくら前世の記憶があったって、当時御ことを知っていても。製粉機の構造なんか知るわけもないから。口を出すだけ無駄になる。説明も難しい事だし、それを作れる職人もいなかったからさ。
煮込み料理の皿がかたずけられ、上等なスープ皿に、香辛料で味付けされた、野菜のスープと少しだけ固いパンが運ばれてくる。パンの皿代わりに、更に固く焼き固められた、パンが置かれて、その上に、丸く焼かれた少しだけ白みがかった、パンが2個置かれている。
エンデ・ガルバドス君は、そのスープをカトラリーですくうと、おもむろに口につけた。ちなみに、あたしの後ろで、毒見の係の人がスープに手を付けている。それが無ければ、おそらく彼は先に食べ物に口を付ける事は無かったと思う。たいがいは女性に、毒見をさせてから食事に口を付けるのが常識な世界だから。レデイファーストなんて言って居るけれど。それは奇麗事でしか無い。
テーブルで向かい合っての食事。この距離なら、小声で話せばだれにも聞こえないだろう。二人っきりで話せる機会が、これからあるかどうか分からない。だから、無理を承知で話をすることにした。昨日なら、その機会はあっただろうけれど。あの時は、これからの事を話した処で、それをまともに考えてもらえるか分からなかったからね。
何が変わった訳でも無いけれど。あたしの中で、少しだけ気に入ったところがあった。此のまま黙って、危険な所に放置しておくのも、気にもなるし。できれば、王都の方に逃げ出しておいてくれても良い。あそこの方が、この国境線にいるよりは安全だ。
苦労はするだろうけれど。家族もろとも、首だけに成るよりは何倍も良いと思う。
「これからは少し小声で話してくださいね」
これから話す事は、愛の語らいではない。恐ろしい事がこれから起こってしまう。そのことを、信じさせなければ成らないのだから。彼絵の顔を見る限り、多少浮ついた事を考えている、事がまるわかりだけれど。もちろん、そんな話をするつもりなんかない。これから起こる、恐ろしい出来ごとに対して、どうするか考えて貰う為だ。




