食事会は踊る 2
店の者の挨拶が終わると、あたしたちの護衛の者や側仕えの者が呼ばれて店に入ってくる。ジェシカ・ハウスマンさんなんかは真っ先に入ってくると、あたしの隣の席に案内されてくる。今日は張り切っているのか、いつもと違った香水の香りをさせている。
ちなみにエンデ・ガルバドス君の隣には、身なりのいい青年が座る。彼の名は、トム・クォウル。見た感じ、エンデ・ガルバドス君とは同年代に見えるから、かなり近しい間柄なんだろう。黒髪を短く切りそろえており、顔つきも整っているから、意外に持てるタイプだと思う。
ただ、所々に白髪が混じっている。その白髪があることから、けっこうな苦労人なのかもしれない。
この店に入る事が出来た、あたしのための護衛は、チッタとニッコリの二人だけだ。それ以外は、店の外で待つ事に成っている。ガルバドス家の護衛の兵隊さんは、四人が入店を許されている。
みんなも一緒に食事が出来ればいいのに、そうは思うのだけれど。立場的にそれは叶わないのだろう。兵隊さん達は、お仕事の真っ最中で、あたしたちと同じように食事を摂るわけにもいかない。そのあたりは仕方が無い事だ。
主人と一緒に食事が出来る訳が無いのは、使用人も同じ事だ。あたしみたいな、メイドなんかはそれこそ食事をしているところですら、主人に見せることは禁じられている。ちなみに、最初にメイドとして、お屋敷に上がった時に、メイド長から、うんざりするほど聞かされている。
昔のあたしが十三歳の頃に言われたら、間違いなく反発していただろう。彼女が言ってきた、メイドの心得なるものは、昔の常識に照らし合わせても、信じられないほど理不尽な物ばかりだったから。それでも、田舎の暮らしよりは大分楽にもなるし、上手く遣って行くしかない。
何しろ、この世界の生活は生きるだけでも、しんどいものだったから。それよりは、心配しなければ成らないものが少ないし。うまく立ち回れば、悪役令嬢マリアが誕生しないうえに、さくら色の君に・・・の世界を覗く事が出来るかもしれないなんて、甘い考えを持ってしまったんだよね。
覗く処か、今ではなんちゃってマリアなんて役回りが回ってくる始末。逃げ出したいのは山々だけれど。そうも行かないのよね。
今のところ、悪役令嬢マリアはいないけれど。どうも彼女が、戦争の引き金をひいたって訳でも無いってことが、分かってきたからね。意図的にあの戦争が起こるように、仕向けられていたんじゃないかって、思うようになってきた。
マリアさえいなければ、王都が戦場に成るような事は無いって思っていたけれど。大きな考え違いだったみたいなんだよね。どちらかっていうと、これまで起こっている事は、誰かが企て居るのかもしれないって思うようになってきた。
此のままほおっておくと、二年後には侵略戦争が起こってしまう。そうなると、あのゲームの背景だって思っていた事が起こってしまう。そうなったら、今あたしの前で、緊張しながら煮込み料理を食べている人も、どうなってしまうか想像できる。
この砦の一家全員と奥様の首が晒される事に成る。それからは、悲惨な侵略が行われる。当然、あたしの村の衆だってどうなるか分からない。帝国が侵略戦争を仕掛けられないようにすれば良いのだけれど。如何したら、諦めさせる事が出来るのか、今のあたしには皆目見当もつかなかった。




