食事会は踊る
宿の一階が、それなりによさげな食事処に成っていた。きれいに掃除された、テーブル席には洗ったばかりだってわかる、真っ白なテーブルクロスが掛けられている。
これはえらいさんが来るから、かなり頑張ったんだろう。ちなみに、これだけのテーブルクロスを使っている、食事処を始めてみたのかもしれない。これまでも、いろんなところでマリアとして、お店に行ったのだけれど。こういった立派な、テーブルクロスを使った店は一軒もなかった。
当然の事なんだけれど、ナーラダのリコが入る飯屋に、テーブルクロスなんか使われていない。うっかりすると、パンなんか皿の上でなく、テーブルに直置きされていたりする。本当に、小さいころから転生に気が付いていてよかったと思う。いい年に成って、昔の事を思い出していたら、かなりのトラウマになったかもしれない。
「いらっしゃいませ」
あたしたちを歓迎するように、五人のお仕着せを着た比較的ベテランの女性が、あたしたちを出迎えてくれた。この人たちが、あたしたちの給仕をしてくれるのだろう。
そして彼女たちの真ん中に、背の高い中年男性が立っていた。気の毒なことに、少し髪が薄くなってきてしまっている。顔は整っているから、若いころは結構モテたんじゃないかな。
ちなみに、ジェシカ・ハウスマンさんほか、護衛の人隊は、いまだに店の外で待っている。街の人たちが、あたしらに付いてくるものだから、少しだけ警戒しなければならなくなった。
街の人達にとって、十三歳の娘が視察なんかしに来ているのが、よほど珍しいんだろう。何しろ、娯楽らしい娯楽の無い世界の事だからね。それに、もしかしたら、自分のところの領主様のところに、御嫁に来るかもなんて話声が聞こえていたから。あの感じからすると、エンデ・ガルバドス君のは領民に好かれてはいるんだろう。
実は、漏れ聞こえてきた声の中で、あたしの事を可愛いなんて言う声が聞こえていたのは内緒だ。そういわれて、悪い気がしないのは、さすがにあたしも女の子なんだよね。
「今日はよろしく頼む」
エンデ・ガルバドス君のが先に声をかける。貴族のそれとしてはめずらいいことかもしれない。
「マリア・ド・デニム伯爵令嬢様、エンデ・ガルバドス伯爵令息様ようこそいらっしゃりました」
敵意を感じさせないように、右足を後ろに下げて、両手を見せるように頭を下げる。それに合わせるように、今日の給仕を務めてくれる女の人たちが、深々とコーツイをしてみせる。
たいがいは、軽くひざを曲げる程度なんだよ。彼女たちは、貴族階級の人間じゃないから、なかなか教育を受ける機会もない。それでも、ベテランなんだろうね。まねっこではなく、なかなか同に行った挨拶っぷりだった。




