公務と書いてデートと読む 6
エスコートされて、歩むことしばし。目の前にガルバドス家の紋章付きの二頭立て馬車が見えてくる。馬車につながれている、馬は何処となくずんぐりしている。
オウルより一回りは大きな真っ黒い馬だった。見た感じそれほど気性が荒い感じはしない。馬車馬としては、かなり適性があるのかもしれない。
すでに御者席には、ガルバドス家の兵隊さんが座っている。今日は彼が御者をしてくれるのだろう。もう一人、少し離れたところに、糞の回収係を命じられた、新平さんが一人待機しているのが見える。腰にショートソードを下げているところを見ると、彼も有事の際には戦力になる護衛を兼任してくれるのだろう。
普通なら、下働きの少年あたりが馬車の後を追いかけながら、馬が粗相をしたら、その後片付けをする。馬の持ち主の考え方次第なのだけれど。そういったところに気が回らないと、町の景観がえらい事に成る。衛生的にもよろしくないしね。
ちなみに、あのレイもああいった事を経験している。亡国の王子様に対して、奥様は容赦ない人だってことだなって思った。彼の出自を知っているあたしは、それを聞いてなんて言って良いか判らなかった。あの奥様の事だから、レイの本当の名前なんか承知しているだろうに。
それを言ったら、あたしだってマリアの下の世話もしているから、そのあたり同じなのかも知れない。忘れそうになるのだけれど、あたしも新米メイドには違いないからね。一通り、メイドがこなさなければ成らない事は、経験させられている。
ほかの同僚メイドの手前、仕事に関することは、同じようにこなす様にしている。それでも、お給金や待遇は格段に違うから、メイドとしての仕事以外に、こうして命がけの仕事をすることで、使用人仲間とうまく折れ合っていく事が出来ている。
今日の護衛をしてくれる、兵隊さんがあたしのために馬車の扉を開く。馬車内は、木戸が開けられていて、陽光が入ってきていた。
室内は、よく掃除されて居心地が良い。木の持ち味を生かした、造りでしかないのだけれど。腕の良い職人がいるのだろうか、かなり凝った造りに成っていた。
ところどころに、飾り彫りが施されている。ちなみに、こういった馬車は奥様も持っているけれど。あたしは中を覗いた事は無かった。メイドのあたしには関係のない世界だ。あの、引きこもり令嬢は馬車に乗る事を嫌がったからね。
どうやら彼女は、馬車に乗っているときに、誘拐されたらしいから。其れが所謂、トラウマに成っているらしい。だからと言って、馬に乗れもしないから、王都に行くことを考えると、如何するんだろうなって思うよ。
この馬車の窓には、鉄の枠にかなり厚手のガラスが使われている。よく見ると、所々が歪んでいるのはご愛敬だろうか。ちょっと力はいるけれど。引き戸に成っていて、開閉ができるようになっていた。椅子には幾つかの、クッションが置かれている。これの上に座るようになっていた。椅子は、木製の椅子だからね。座り心地のいいもんじゃない。それでも、父ちゃんが持っている荷馬車の席よりは、座り心地はよくなっている。馬車と比べるもんでもないのだけれどね。ちなみに、あの荷馬車にはスプリングが取り付けてあるから、よほどの事が無ければ、揺れなくなっていたりする。この馬車にはそういった物は付いていない。
あたしが奥の座席に着くと、エンデ・ガルバドス君が乗り込んでくる。おもむろに隣の席に着いた。その席は、侍女のジェシカ・ハウスマンさんの席ではないのだろうか。いったい、マリアとの関係はどうい物なんだろうか。正直聞いてないと、心の中で叫びたくなった。




