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山猫は月夜に笑う 呪われた双子の悪役令嬢に転生しちゃったよ  作者: あの1号


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公務と書いてデートと読む 5

「マリア・ド・デニム嬢御機嫌うるわしゅう」


 エンデ・ガルバドス君は丁寧な挨拶をしてくれる。ところどころぎこちなくて、年齢の事を考えると、ちょっと応援したくなる。前世を加えると、あたしは大分良い歳だからね。かなり年下に成るから、どうしてもそんな目で見ちまうんだよね。

 あたしはなるべく奇麗なコーツイを意識して、彼に返す。少し腰の位置が高かっただろうか。側にいるのは、彼の護衛を務める私兵の皆さんと。側仕えの青年。 

 あたしの隣には、侍女のジェシカ・ハウスマンさん並びに、これまた護衛の任をお願いした、チッタとニッコリの二人が立っている。かなりの大人数の視察に成ってしまっている。当然の事だって、ハウスマンさんは言うけれど。大げさだなって思うのよ。

 単に、領都領民の様子を見たかったのと、なんといっても聖地には違いなかったからね。実はスチルは、領都の中の様子もあったから。あたしはそれも確認したかった。

 あたしは領都ガルバに来たことがなかったから、町の様子を見ておきたかったのよね。スチルにあった街並みが、本当にあるようなら。間違いなく、帝国の侵略は起こる。いつ起こるかは、今のところ二年後だろうけれど。もしかすると、あたしの考えすぎかもしれないし。ぜひ否定できる材料が欲しいところだ。

 エンデ・ガルバドス君はいい笑顔を何とか作るのに、成功していた。あたしも気を使って、笑顔を浮かべる。マリアの笑顔にはかなわないけれど。あたし的にはまずまずの笑顔だと思う。

 別に好きとかそう言う感情は無いから。困っちゃうんだけれども。如何したもんかね。


「マリア様、私にエスコートさせてください」


 あたしが困って、立ち尽くしていると、エンデ・ガルバドス君が頑張って、あたしの左手を取ろうとしてきた。思わずその手を避けようとしたけれど。ハウスマンさんの視線に気付いて動きを止めた。この遠征の間に、エスコートされるのには、慣れてはいたけれど。ちょっときまりが悪い気がしているんだ。

 だって、彼はあたしがマリアだって思っている。この好意はマリアに対してのものだ。決して、ナーラダのリコに対しての物ではない。

 悪役令嬢マリアなら、全く意に介したりはしないだろう。昔のあたしなら、それもありかなって思ったかもしれない。それでも、こんなに絶賛好きですオーラ全開で来られると、困ってしまうんだよね。

 貴族に作法にのっとって、彼のエスコートを受け入れる。彼の右手の掌が、汗で湿っているのが分かった。

 彼の右手は、武骨でところどころ小さな古傷があった。見た目よりも、槍を使うのだろうか、槍を持つときにあたる場所が、硬くなっているのが分かる。

 もしも、帝国が攻めてきたら、この人は戦場に赴くのだろうか。そのための鍛錬ではあるのだけれど。その力を、勝てもしない戦場には立たせたくはないなって、思ってしまった。





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