出会いの予感
結局あたしは、2日も宿で過ごすことになった。未だにお嬢様が床を出ることが出来ないでいるらしい。屋敷に戻ってくることが出来て、ほっとしたせいか、高熱を出して起き出すことが出来ないそうである。そりゃそうかとは思うけど弱すぎねぇ。
こんなところで軟禁されてれば、あたしじゃ無くてもいらいらしてくると思う。宿から一歩も出られないのは、退屈で死んでしまいそうになる。
宿の飯はそれなりにうまかったけど、宿の敷地から出られないのはどうなのよと思う。ニックは気晴らしに1回の酒場の、飯盛り女と仲良くなって、宿の空き部屋で、良いことをして居るみたい。あたしには出来ない相談なのだ。
からかいがいのある男の子は、この宿には全くおらず。居るのは朴念仁な兵士や話の通じなさそうな役人ばかり。どうもデニム伯爵家がこの宿を貸し切りにしてしまっているらしく。客らしい客はいない。空き部屋も結構あるし、此れって迷惑じゃ無いのかな。
今日から、あたしは部屋に軟禁状態からは、解放されたので、泊まっている部屋の窓から見えていた、中庭にやって来た。
この宿はコの字型をしており、総二階の建物で、お洒落なオレンジ色の瓦で葺いている。雨のなか無理をして、あたしが登ったら滑り落ちたかも知れないと思った。少しばかり傾斜がきつい。
二階の部屋の窓は、木戸になっており。今はいくつかの部屋の窓が開け放たれている。ここからでは、部屋の中までは見ることが出来ない。あたしの背が低いのが主な原因だけれどね。
初夏の青い空と、すてきな入道雲が南の空に浮いている。夕方には雷を伴った雨になるかも知れない。
外の出でることが出来て、この宿がこの街の中で一番大きな宿だと言うことに気付く。確かモーガンの宿っていったかな。
この街に来たことは、有ったけど一回も、この宿に泊まったことは無い。あたし達みたいな貧乏人には、全く縁がなかった。
二階の部屋の窓は、全部木戸だったけれど、一階部分はガラス窓になっており。部屋の中から、中庭を眺めることが出来るようになっている。中庭は簡単な舞台のようになっており。部屋の中にいながら、芝居や演奏を楽しめるようになっている。
宿の雰囲気が急に変わった。なんとなく慌ただしい。
宿に詰めている兵士達や、使用人達がなんとなく慌てている感じがする。
大型の馬車が、石畳の上をこちらに向かってくる音が聞こえてくる。誰か偉い人が来るのかも知れない。あたしは宿の正面玄関が見えるところまで、身を低くしながら向かう。よく手入れされた、庭木の間から、玄関を盗み見る。
デニム家の紋章付の、二頭立ての馬車が今止まろうとしていた。その馬車の前後には、護衛の兵士が二人ずつ並んで立っている。




