長い夜 3
眠れない。疲れても居るのに、眠気が全くやってこない。おかしな考えがざわざわと浮かんでは消えてゆく。
此所には昔のように、時を刻む時計のような物は置かれていないから、耳障りな機械音が聞こえても来ない代わりに。周りに居る人間の営みの音が聞こえてくる。これは気の所為に過ぎない。其れは理性で判っている。
どうやら普通の人よりは、あたしは耳も良いらしいけれど。そこまでできが良いわけでも無い。意識しなければ、そう言った聞き取れないような音を、聞き分けることなんか出来ないからね。
あたしの目は特別製で、かなりの暗視が出来る。其れも、瞼を閉じれば闇の中と少しも変わらない。今は眠るべき時だ。
明日は城下の視察が待っている。エンデ・ガルバドス君が態々、あたしを案内してくれることになっている。寝ぼけたまま、いわゆる公務を熟すわけにも行かない。なんちゃってマリアの仕事をこなせないことになるからね。
彼に対しても、有耶無耶にしてしまっているし。マリアの奴がどう思っているか判らない以上。あたしの一存で、振ることも出来ない。正直馬に蹴られるようなことも出来ないからね。
あたしは意外にマリアのことも好きになっている。熟々殺さなくて良かったなって思う。だからと言って、お馬鹿なことをしでかさないとも言えないし。王都の学園に着いていこうと思ったんだけれど。彼女は悪役令嬢役を務められないとも思うしね。
良くも悪くも、マリア・ド・デニム伯爵令嬢は良くいる高慢ちきな御令嬢でしかないから。そんな大それた事なんかできない。それでも、心配なのは、王都には父親が居る。あれは、若しかすると悪役令嬢マリアを操っていたのかも知れ無いし。その辺りも心配なのよね。
此所に来て判ったことがある。この砦はなにもしなければ、マッキントッシュ卿の裏切りと帝国の進軍。その際に時期的に、悪役令嬢マリアが起こした騒動で、文字道理四面楚歌になって、陥落する。その際には、領都ベレタも序でに落ちて、この辺り一帯が焼け野原になることだけは確かなことだ。
彼奴らは、領民を根絶やしにする政策をとっているから、畑に塩を薪ながら進軍する。殺されなくても、人としての扱いは期待できない。いわば家畜のように扱われることになる。奴隷扱いならば良い方だ。
因みに、こういった事はさくらいろのきみに・・・の中では語られなかったけれど。以前、メイドのサリーさんに聞いたことが有る。彼女は、帝国に滅ぼされた、小国の貴族の令嬢だったそうで、運良くマルーンに逃げ延びることが出来た女性の一人だ。
奥様は結構こう言った、難民を受け入れている。あのレイなんかもその一人だしね。彼にそういった事情を聞き出すことは出来ないで居るけれど。あたしは、彼がシークレット攻略対象だって知っているし。ファンブックの設定も、読んで居るからね。
某国の王子様を、匿うなんて奥様は大変太っ腹なんだって思っている。




