長い夜 2
天蓋付きのベッドに寝ながら、無益に時間を過ごしている。其れは判っているのだけれど、あたしは思い返している。
この砦の様子は、間違いなくスチルで見た物だ。城壁の造りも、そこから眺めることの出来る風景は、多くの敵兵と攻城兵器さえなければ、スチルで何度も見た風景だ。最期は簡単にスキップしてしまう物でしか無かったけれど。それでも、衝撃的なスチルだった。
このスチルに代表される、恋愛要素だけのゲームでない特徴だったからね。このゲームの売りの一つである、重厚なスペクタクルと悲劇の要素が背景にあったんだよね。
プレイヤーとしては、単なる背景でしかなかったから、あんまりよく考えもしなかった。だって、ゲームの背景描写でしかなかったから、そのスチルの裏側で、どれだけの人間の命が失われているかなんて、思ったりしない。
その場所に、あたしが居る。再来年には、この砦は落ちる。
其れも味方の援護を受けらる事も出来ない状況で、孤立してしまって。逃げ出すことも適わない絶望のうちに追い詰められる。その頃のヒロインちゃんと、悪役令嬢マリアは脳天気に恋の悩みを抱えて、右往左往していた。その頃の王都の人間にとって、マルーン邦の砦が落ちたことは、其れほど大きなニュースに成りもしなかった。
情報が届くのには、其れなりに時間が掛かる。ましてや、属国の砦一つだ。平和ぼけしてしまっている、貴族の子女子息の話題になりはしない。其れよりも、好もしい異性のことの方が気になってしまうのは仕方が無いことだ。
その付けを直ぐに支払うことになるのだけれど、そういった事を考えるのは立派な大人がすることだから。そういった事に思いをはせる者は、攻略対象者の中にも居たけれど。つい最近まで、平民の娘でしかないヒロインちゃんの視野には、入ってこなかった。あんまり残酷シーンをよい子に見せるわけにも行かないからね。あれでも、R15の指定が有ったけれど。
ただその事を話したところで、此所の砦の人達は信じてくれるのだろうか。勿論、此所の人達は日々いの脅威を肌で感じているだろう。其れだから、リントンさんが影の拠点を造っているのだろうから。
それでも、橋の細工をされてしまっているところを見ると、決して上手く回っては居ないのだろう。
この砦は、落ちてくれては困るわけで。ただ、なんちゃってマリアでしか無いあたしが、なにが出来るのか見当も付かない。何しろ、あたしは来年にはマリアに付いて、王都に行こうと思っても居るから。此所でなにが出来るわけでも無いし。
本当にどうしよう。このまま黙っていたら、村の衆も。ここに住んでいる人達も、どんな目に遭わされるか判った物でも無いのだから。せめて、平民自国の国民にしようとするなら、犠牲は最小限で済ますことが出来るかも知れ無い。あたしの知る限り、あの国の根底に流れる意志は。己が信じる神の意志に反する者は、忌むべき汚れでしか無い。
自分達の信仰こそが絶対。それ以外は汚れでしかない。浄化してやることこそが、慈悲であるなんて考えているからね。




