ある意味聖地巡礼 10
踏み荒らされた、小麦畑に塩を撒く敵兵。何処か下品な表情をした、欲望むき出しにした獣のような兵隊達は、此れから起こるであろう事を思い描いているのか、笑っている者すら居る。
彼らは人外の其れのようにすら、描かれていたのだけれど。其奴らは、帝国に支配されてしまった、小国の住民のなれの果てだ。若しかすると、レイの母国の人間なのかも知れ無い。全ての人間を幸福にするための、浄化こそが帝国の執政なのだから。
略奪と強姦はセットになっている。そして、敗戦国の国民には人権は存在していない。若しかすると、生存することすら許していない。其れこそが、彼の国の皇帝の政治だ。
さくらいろのきみに・・・の中ではほんの触りしか描かれなかったのだけれど。それでも、帝国と名乗る蛮族のやりようは酷い物だった。その戦乱の中で、恋をして新たな生きる道筋を見付ける。そこで、それぞれの幸せな生活を手に入れる物語だった。
ヒロインちゃんの周りには、乙女ゲームらしいふんわりとした背景が描かれても居たけれど。一般的な人々の生活は悲惨な物でしか無かった。
ゲームをしていた頃のあたしは、そう言った悲惨な背景になんか気付くことも無く。ゲームの中の切なくて、甘酸っぱい恋の物語を夢見ていたことを憶えている。
今思えば、あの頃が一番幸せだった。やがて物事が判る年頃になると、身の回りにいる男達の大半が、救いようのない屑ばっかりで、其れがいい大人ですら変わらないことが判ると、甘いゆめは消え去って、次第に楽な方へ流れるようになったんだよね。
「綺麗なところね」
あたしは遙か森の先まで伸びる、緩やかな曲線を描くように、伸びる馬車道を目で追いながら、思わず言葉を零す。あの悲惨なスチルを思い出すと、この平和な風景がきらめいているようにも見える。如何したら、これを守ることが出来るのだろう。何処かの天才戦略家でも、転生していてくれないかしら。
あたしがマリアに成らなければ、そういった事は起きないと思っていたけれど。どうやら、一悪役令嬢の行いは。帝国の侵略を助けることには成っていても、其れだけでしかなかったみたい。既に、帝国の仕込みは入っていて。悪役令嬢マリアの破滅は、その一貫でしか無かったのかも知れない。
「ありがとう。マリア嬢にそんなことを言って貰えて、僕はうれしく思うよ」
あたしの独り言が聞こえてにか、エンデ・ガルバドス君が隣で話しかけてきた。相変わらず困り顔で有る。きっと話しが続かなくて、本気で困っているのだろう。
視線を彼の頬に向けると、成るべく心から笑っているように見えるように笑顔を浮かべる。一寸だけ気の毒に成ってきた。話を合わせてあげるべきかも知れ無い。なんと言っても、彼はピュアな男の子には違いないのだから。
風向きが変わったせいか、何処かから労働歌が聞こえてくる。あたしの故郷ナーラダ村でも良く歌われていた歌だ。
「この歌は、この辺りの村の衆が、仕事をするときに良く謳われている歌なんだ。この辺りで働いている農奴達が帰ってくる頃なんだろう」
気が付けば、太陽が大夫傾いてきていた。この城壁の上に来てから、かなりの時間を過ごしてしまっていた。




