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山猫は月夜に笑う 呪われた双子の悪役令嬢に転生しちゃったよ  作者: あの1号


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ある意味聖地巡礼 8

「兄貴、これは貸しだからな」

「ああ、後でなにか考えてやるよ」


 狭い石作の階段を、アンソニー・ガルバドス君が駆け上がって行く。元気が有り余っている彼は、階段を2段飛ばしだ。手すりなんか無いこの狭い階段は、決して安全な階段とは言えない。ウッカリすると、足を滑らせて転げ落ちることになる。


「足下気を付けてね」


 思わず声を掛けてしまった。元気が有るのは良いのだけれど、昔と違って、こっちでは、一寸した怪我でも、大事に成ってしまったりする。医療知識が足りないって事は、適切な治療を受けることが出来ない。大概は民間療法に毛の生えたような治療が、当たり前な世界だから。一般人だったあたしが見ても心許ないことが多い。

 貴族の子息の其れだから、一般平民とは異なり。木賃とした医者に診て貰えるけれど。その医者が、あたしが知っていた医者と比べることすら、烏滸がましいくらいの違いがある。流石に、お祈りで怪我や病気が治ると、信じているような医者は居ないけれどもね。藪の方が殆どなんだよね。

 あたしが声を掛けている顔を眺めていた、エンデ・ガルバドス君が苦笑いを浮かべる。決して、何処かのアイドルみたいな顔では無いけれど。決して嫌いでは無い顔だ。因みに、弟君の方がいい男に成りそうな気がした。


「マリア嬢とは二人っきりで、話がしたかった。幾つか修正しておかなければならないと思う。僕は病気で、王都の学園に行かなかったわけでは無いんだ。至って健康だし。ただ、嫡男である僕を彼処に行かせたくない。そう御父様が考えた末の決断だったと理解して欲しい」

「其れは聞かなかったことに致しますわ」

「マルーン邦の貴族に課せられた、義務だって事は判っている。だから、僕は病気を患うことに成った。決して詐病でも無いのだけれど。今は健康になったと理解しておいて欲しい」


 あたしとしては黙って、病気療養中ですって顔をしておいて欲しかった。これを真面に報告してしまったら、ガルバドス家の立場が悪くなるやつだ。此所を守る、ガルバドス家に陰りが見えることは、これからのことを考えるなら、避けて通りたい。


「何故私に、そんなことを告白するつもりになったのでしょうか。その事を、私に知られることは、ガルバドス家にとっては不都合だったのではないですか」

「確かに其れは不味いことです。マリア様が、僕のお嫁さんになってくれるって言葉を信じていたい。だから、僕は学園には行かなかったけれど。貴女と結婚できないわけでは無いと、伝えておきたかった」


 此所に知らされていなかった、衝撃の過去が知らされてしまった。あの女は、この男の子と約束をしていた。相当幼かった頃の約束だから、彼奴も忘れてしまっていると思うけれど。この男の子は確り憶えている。どうせいって言うんだ。

 なにを遣ってくれているんだ。餓鬼同士のたわいも無い約束だろうけれど。其れだって、純情な男の子の顔になっている。目の前の少年が信じられない気がした。



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