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山猫は月夜に笑う 呪われた双子の悪役令嬢に転生しちゃったよ  作者: あの1号


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ある意味聖地巡礼 5

 ガルバドス兄弟は、さくらいろのきみに・・・の物語に中で、殆ど顔を出すことも無かった。つまり、モブですら無い立場だ。だからと言って、彼らの思惑だって存在する。あの乙女ゲームの中で、描かれなかったそこにも、当然のように物語があるのだから。


「お早う御座います。昨夜はよく眠れましたでしょうか」


 エンデ・ガルバドス君が実にいい顔をして、声を掛けてくる。少し声が掠れて聞こえる。若しかすると、昨期までかなり興奮して、怒鳴り付けていたのかも知れ無い。

 あたしは二人の顔を交互に眺めると、表情で説明を促すようにする。若しかすると、この辺りで頬に手をやって、小首をかしげれば良いのだろうけれど。正直小っ恥ずかしい仕草なんで、一寸出来ないわ。マリアの奴は意識的に、これを遣る。得にいい男の前だと、其れこそあざとい仕草を連発する。なんちゃってとしては、失格なのは判っているんだけれど。無理な物は無理なんだ。


「はいお早う御座います。お陰様で、よく眠れました。部屋好きのメイドさんにありがとうと伝えて置いてくださいませね」


 たぶん顔を合わせることは無いのだろう、部屋付きのメイドさんにお礼の言葉を伝えてくれるように言っておく。お礼ならお金でして欲しいと思うかも知れ無いけれど、メイドをしている自分としても、お礼の言葉だけでも嬉しいもんだし。何より賓客からのお礼の言葉は、雇い主の心証を良くするから、伝えておくに限るんだ。

 因みに、マッキントッシュ邸ではそういった事を一言も話してはいない。つまり、そう言う事なんだ。頭首が替わると、こんなにも使用人たちの態度が、がらりと変わる物だとは知らなかった。お爺ちゃん領主が居た頃のことは、其れほど知らないけれど。今よりはずっと態度が良かった気がするんだよね。


「兄に先を越されてしまいましたが、僕も御令嬢とも仲良くしていただきたいと思いまして」


 少し顔を赤く染めながら、あたしの瞳を覗く込んでくる。まだあたしの方が、背が高いせいか、少しだけ見上げられているのが何とも、こそばゆい気がする。


 それぞれに、打算や下心は感じるけれど。概ね好感の持てる兄弟だ。困り顔で、弟の事を見ている兄と、兄のことを何処かで馬鹿にしているような弟。関係性が見える気がする。


「僕は再来年には、王都の学園に入学することになります。御令嬢も来年には、入学する事が決っていると伺っているので、あちらに行ってからも懇意にしていただけると、有難いと思って居るんですよ。兄は身体が弱く、入学すら適わなかった物ですから。僕が代わりに、この領を守らなければならないんです」


 アンソニー・ガルバドス君の物言いは、少し棘の有る物だった。兄のことが嫌いなのかも知れない。エンデ・ガルバドス君の顔は本当に困った顔になっていた。見る限り、彼は健康そうに見える。それに、普段から鍛錬をしているせいか、胸板も厚く。腕も結構太くなっている。手には胝が幾つもできているようにも見える。

 アンソニー・ガルバドス君が言ったことは、事実では無い。嫡男を手放さないための詭弁だ。見る限りでは、健康そうに見えるから、王都に人質に取られないための、ささやかな抵抗とみた。ただ、人は見た目では判らないから、若しかすると何処かに欠陥を抱えているのかも知れ無い。その辺りは黙っている方が吉かな。




 


 

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