ある意味聖地巡礼
あたしの朝は早い。昔とは打って変わって、日が昇れば動き出し。日が落ちれば眠る生活に慣らされているから。苦にも成らない。
マリア・ド・デニム伯爵令嬢の方はそうはいかないかったけれど。村娘の生活は、其れが当たり前で、疑問にも思ったことなんか無い。ただ、前世の記憶持ちのあたしとしては、少しだけしんどいなって思う。
メイドのサリーさんが、何時ものように桶に水を汲んで持ってきてくれる。既に起き出して、ベットの側に置かれた、小さな台の上に置いく。礼を言って、顔を洗う。そして、いつの間にか用意したのか、乾いたタオルを手渡してくれる。
サリーさんは髪を洗ったからか、綺麗な金髪がなおいっそう輝いて見える。お仕着せのメイド服を着ていなければ、何処かの貴婦人とも見えるたたずまいをしている。ぶっちゃけ美人さんなのだ。
「いつも通り早いわね。今日は伯爵様の御子息様との、散歩の予定でしたね。真逆、一緒に鍛錬をするとは言わないでしょうね。流石に着替えは、用意できかねますわよ」
今のサリーさんの言葉は、ナーラダのリコに対する其れだ。この時間は、流石に、聞き耳を立てて居る人間は居ないから、そのあたりは大丈夫だろう。マッキントッシュ邸の方では、絶えず見張られていたから、気を抜くことも出来なかった。
この砦のある屋敷の中で、そう言った仕掛けは見受けられない。どうやら身内と考えられているらしく。秘密を探るための、仕掛けを見付けることが出来なかった。つまり、純粋な貴賓室に通されたって言うことだ。
あたしはそう言った仕掛けを見付けるのが得意だ。建物の構造を見れば、何処にどういった仕掛けが有るか判る。この部屋に通されたときに、何故か違和感を感じて、丹念に調べたんだけれど。もし盗聴できるとしたら、親指サイズのこびとさんくらいしか居ないだろう。
「本当は、今日の午前中は、ガルバドス卿とお話しをしたいと思っていた位なのよ。お陰で、卿とのお話し合いは、午後からになってしまったわ。明日にでも、森に繰り出したいのだけれど。一寸無理目かな」
「其れは無理でしょう。恐らく、ハウスマン様が許してくれないのではありませんか」
サリーさんの明確なお答えに、あたしは溜息が漏れる。いい加減、身体を動かしたい。引きこもりのマリアの真似をしていると、可笑しくなりそうなくらいストレスがたまってくる。メイドの仕事を遣っていた方が、キツいけれども、貴族の振りをする方が百倍しんどい。




