カテーナ領主夫婦 2
「彼処にいらっしゃるのが、フォルテ・ド・ガルバドス伯爵とその御家族です。リコ、上手くおやりなさいね」
ジェシカ・ハウスマンさんが小声で、あたしに話しかけてくる。彼女の表情から、不安が見て取れる。彼の坊主の叔父さんは、マリアを其れこそ可愛がっていたらしい。ましてや、最も重要な、国境線を守っている人物だ。マッキントッシュ卿とは分けが違うって事だろう。
お出迎えに出て来ている、使用人の数も結構な数だけど。全員が胸を張って、仕事に其れなりの矜持を持っているのが判る。職場としては、大変環境が宜しいのかも知れ無い。何より、履いている靴が結構良い物だって言うところなんかね。
マリアの代わりに、この遠征の途中で、色々と領主邸にお邪魔したのだけれど。その中でも、此所の使用人たちの使っている靴は、其れなりに良い物だって判る。お抱えの靴職人が、良い仕事を為ているんだろう。良い靴を使用人にも、支給しているって言うことだから。経済的問題も無いのだろう。
それでも、奥様がお金を配る決断をしているって言うことは、この領地がとても重要な場所だって言うことなんだろう。この辺りは、賢者様からの受け売りだけどね。
本来なら、あんな人を奥様が在野においとくのが悪い。折角の知恵を失ってしまったのは、勿体なかったんじゃ無いかって思うのよ。それに失われた、書物なんか、どれだけの財産だったか計り知れないからね。何しろ、印刷技術が発達していないから、書物の類いは全てが手書きで、文字を書ける人が、大変な労力をつぎ込んだ品物なのだから。
あたしの視線が向かうと、使用人たちが一斉に挨拶のための礼をしてくれる。これだけの人数が、一糸乱れぬ動きを見せると、結構な音が出るもんだな。なんか、取っても凄い。兵隊さん達なら、判る気がするんだけれど。単なる使用人も、其れこそ上から下まで、一糸乱れぬ動きが出来るって、一寸信じられない気がする。
此所に勤める人達は、何時戦場になるか判らないから。覚悟を決めているのかも知れ無い。実際、この砦は奥様と一緒に落ちるのだけれど。この砦にいる人達、全員磨り潰されることになる。シナリオの都合というか、今のとk路其れを覆せないで居るからね。
あたしは悪役令嬢マリアではないし、マリアを助けたから、少しは未来は変わっているとは思う。でも、其れだけだ。
お隣の帝国の人達は、間違いなく侵略の意志がある。その証拠に、色々と手を変え品を変え、まるで戦略ゲームの様に、工作をしてきているからね。これは、あたしの勘でしか無いのだけれど。マッキントッシュ子爵の処の、橋の仕掛けなんか、その一手じゃ無いかって思っている。若しかすると、彼のお爺ちゃん領主様が、亡くなったのも、その一貫なのかも知れ無い。
だって、今のマッキントッシュ卿はとても頼りないし。無能だとは言えないけれど。とてもじゃないけれど、既に目の前に脅威を抱えた、国境を任せることが出来ない。そう思ってしまった。
きっと、奥様も感じているとは思うのね。だからと言って、確たる証拠も無しに転封させるわけにも行かない。これは考えすぎかも知れ無いけれど、橋の細工にしたって、雑すぎるのよね。発見させて、マッキントッシュ卿の立場を追い詰めるのが目的かも知れ無い。




