初めまして、悪友のお嬢さん 5
正門が開かれて、砦の跳ね橋がゆっくりと下げられる音が響く。そろそろ保守点検の時期だろうか。
側に来ていた、筆頭執事のベイリーに向けて、声を掛けておく。気が付いたときに対処しておかないと、後で後悔することになるから、其れを今しておかなければならない。後で対処することなど、中々出来ないことだからだ。
「跳ね橋の保守点検を、前倒しで行っておくように、ガストの奴に伝えておけ」
視線をお仕着せの執事服を着た、初老の男性に向けて言葉を掛ける。俺が餓鬼の頃から、此所で執事をしている、生粋の執事だ。何処かの腹黒執事とは違い、実直真面目な使用人の鏡のような男だ。奴のように、情報機関の頭など遣っては居ないが、十分この屋敷内を切り盛りしてくれている。
「畏まりました。お客様がたの歓迎の準備は整っております。其れと、昨夜、領都の方で、いささか歓迎できないことが、起こりましたので、その内容につきまして、領都番からの報告書が届いております。後ほどお持ちいたしますので、宜しくお願いいたします」
ベイリーは、そのまじめくさった表情を此方に向けて、タンタンと話しかけてくる。この男が、声を荒らげるところを見たことが無い。其れこそ、俺が餓鬼の頃から、こう言う話しかたをする男だった。これが、大恋愛の末結婚為たなど未だに信じられない。因みに、結構ふくよかな奥様だ。子供は全員、成人しており。既に、孫が居たはずである。
ベイリーとの話が終わったとみるや。我が愛する妻のクレアが話しかけてくる。今日の気分は其れなりに悪くないらしく。肌の色つやも良く、化粧ののりも良いらしい。最近、彼女が愛用している香水の香りが、何とも言えずそそる物があった。
少しだけ、髪を下ろしている彼女の姿が脳裏に浮かぶ。流石に今晩は、そうも行かないだろうが、孰れ近いうちに一つ拝みたい物だ。
二人の息子たちは、今回公務を勤めるマリア・ド・デニム伯爵令嬢とは、かなり近い年齢である。ただ、色々と拗れてしまっているので、俺とは話が出来なくなってしまっている。
俺にも経験があるから、そういった事は仕方が無いことなのかも知れ無いと思っている。実は本来なら、王都にある学校に行かせなければならないのだが、療養のために、この領を出られないと言うことに成っている。実際、長男は病弱で月に何回か、寝込む事も有った。
本音を言うと、彼の王のもとに人質に、出したくなかっただけだ。彼の国の定める、有力貴族の子女を通わせる、学校という物は学びの場としては、決して宜しくないと思っている。体の良い人質を確保するための、制度でしか無いのだから。
あくまでも、俺達はマルーン王国を統べる。女王アリスの臣下なのだから。




