マッキントッシュ邸を後にして 9
「何故貴女なんかに、奥様は権限を持たせたのかしらね。マリア様に良く似た容姿があっても、其れだけではありませんか。何処かの村の娘でしかない」
ジェシカ・ハウスマンさんの苛立ちの捌け口が、こっちに向かってくる。あたしは関係ないと思うのだけれど。生まれも育ちも、何処の馬の骨とも知れ無い。村娘が、こうして命令を出している。立派な貴族の御令嬢である、彼女の矜持を傷つけているのかも知れ無い。だからと言って、素直にハウスマンさんの言うことを聞くわけにも行かない。
「あたしは、ハーケンって言う小隊長の娘です。これでも、其れなりには使えると思っているのだけれど」
一寸ムッとして、あたしは言い返す。何だか、ジェシカ・ハウスマンさんの苛立ちが伝染してくる。こう見えても、あたしは気が短い方だ。喧嘩なら、こっちだって、受けて立つ。素手のキャットファイトなら、表に出るなら為ても良いかもしれない。この部屋での乱闘は、正直ノーサンキュウだ。ざっと見た限りでも、壊したら、言い訳が利かないようなものが並んでいるし。
「確かに、貴女は優秀かも知れ無いわね。どうして、村娘が読み書き計算が出来て、複雑な書類の類いを読み解けるようになるのかしら。貴女の父親は、裏切り者の騎士だったけれど。その裏切りも、奥様は許したのよね」
「そうね。不思議な事よね」
其れはあたしが前世の記憶持ちで、その上、父ちゃんは邦に対して、一寸言えないような、悪意を持っていたから。その為に、あたしを育てた。苦労して、賢者様に教育をお願いしたのものそうだ。国を終わりにするための、知識と教養を持たせた。
マリア・ド・デニム伯爵令嬢と入れ替わらせて、王都へと潜入して破壊工作をさせるための手駒としてね。そんなとんでもないことを、何処の誰に吹き込まれたのか知らないけれど。らしくないことだったと思うよ。
だって、父ちゃんは見た目通りの脳筋で、物事を基本的には物理で解決する人だったから。あたしを悪役令嬢に育てて、自分の憎しみを成就させるような酷いことを、考えるような人ではなかった。ぶっちゃけ単純でお人好し。
何故かあたしが絡むと、容赦が無くなってしまうのが玉に瑕って言う感じかな。




