ちょっとの善意 3
ほんとに父ちゃんが、自分の赤ちゃんを失った事から立ち直ってくれて良かった。あたしが少し大きくなってから、アガサおばちゃんに聞いたのだけれど。あたしが生まれる少し前に、領主様の処でも、アリス・ド・デニム伯爵夫人が妊娠していたらしい。その時は大変な難産で、領都にいる良い医者が全部、その出産に駆出されていた。
その頃、父ちゃんは護衛騎士を遣っていたらしいのだけれど、うん悪く母ちゃんも妊娠していた。その時に苦労したので、護衛騎士を辞めて、村に生まれてきたあたしと奥さんを連れて帰ってきたのだそうだ。
勿論此れは下手すぎる嘘。ゲームのオープニングシーンで知っている事は、母ちゃん父ちゃんの子供は、医者に診て貰うことも出来ずに、生まれてすぐ死んだのだ。出産補助してくれていた奥様達にはどうする事も出来なかった。その時のショックで、母ちゃんの心が壊れたらしい。死んでしまった、赤ちゃんを捜し歩くようになってしまった。
其処へ持ってきて、生まれたての赤ん坊を森に捨ててくるようにとの命令。其れは堪らないよね。
そのおかげで、あたしはナーラダのリコになった。ゲームのシナリオなら、今頃はマリア・ド・デニム伯爵令嬢の振りをして、馬車の椅子に座っていたことだろう。父ちゃんの復習の駒として。
今の父ちゃんは、デニム家に対して憎しみを持ってはいるだろうけれど。あたしに対する愛情の方が勝っているみたいなので、あたしを道具に使おうとは考えていないみたい。
あたしの頑張りのおかげで、嫌な表情をする事は無くなった。とっても大事にされるようになって、此れってあたしがお嫁に行くなんて言ったら、相手はボコボコにされるに違いない。少なくとも、父ちゃんよりは強い相手でないと駄目かも知れない。
平民から騎士爵位を受けた、男より強くなるって難易度高すぎじゃ無かろうか。少しやり過ぎたかも知れない。
「だから、リコねーちゃんは心配要らないわ。あたしは可愛いからきっと欲しいって言ってくれる人が出てくる。そしたら高く買って貰うからさ」
リタは、あたしの左手をぎゅっと握りしめていった。その表情は、どこか大人びていて、妖艶な表情をしていた。色々知ってる女の顔だった。
ただ、あたしの手を握っている彼女の手は小さく震えている。
あたしには、彼女が手助を求めているように感じられた。本当は怖くて仕方が無いのだろうな。
読んでくれてありがとう。




