マッキントッシュ邸を後にして 6
あたしの後ろにサリーさんが、そっと付き従ってくれている。この人は、其れこそ黙っていれば、侍女と勘違いされるほどの人で、それでいてメイドのとしての仕事もキッチリ出来る。
マッキントッシュ邸の廊下を、あたしの歩く速度に合わせて付いてくる。この人が、この旅の間、ずつと面倒を見てくれている。今回は、トイレを使う手伝いを為てくれるつもりなんだろう。そこまでしてくれなくても、良いとは思うのだけれど。其れがメイドの仕事だそうだから、其れを断るのもどうかと思うしね。
因みにあたしは、マリアのドレスの脱ぎ着には手を貸している。時々ではあるけれど、彼女はトイレを使うのに、使用人の手伝いがいるようなドレスを着ることもあるからね。トイレの後処理もメイドの仕事でもあるし。汚れ仕事は基本的に、メイドの仕事だからね。
今着ているドレスは特注品で、一人で脱ぎ着が出来るように成っているから、その辺り使用人の手伝いは要らないけれど。他の人間の手前、サリーさんの補助を断るわけにも行かないのよね。熟々令嬢って職業は大変な仕事だと思う。だって、事の後処理も他人に任せるようになるんだよ。本当になれないわ。
あたしは貴賓室に戻ることにする。あそこには、新しくメイドとして雇ったクリス・バートランドさんが待っている。流石に月の物が終わっても、引き続き手伝って貰うのには、少し言い訳が必要で、取りあえずメイドとして雇うことにした。前職のことを考えると、色々と厄介なことが一杯あったけれど。
レイナさんから買い取る形に落着いたんだ。話をして驚いたんだけれど。彼女は、領都ベレタの影の元締めだった。あれで、騎士爵位を持つ立派な貴族様だった。本名の方は教えてくれなかった。
其れと、クリス・バートランドさんを買い取る形になってしまったのは、いわば彼女は奴隷の立場だったんだよね。この世界には、基本的人権なんて考えはないから、その辺りは仕方が無いのかも知れない。
あたしは最初は、バートランドさんを買い取って、侍女に戻して上げようとしたんだ。其れは、ジェシカ・ハウスマンさんに反対された。貴族でなくなってしまった彼女を、侍女として受け入れることは出来ないそうで、これからのことを考えるなら、一時雇いのまま、奥様に相談することを強く勧められた。
実はあたしは、この遠征の間、かなりの権限が与えられている。名目上でも、あたしはこの遠征隊の責任者を任されている。何で、そんなことに成っているかというと、全部奥様の意向らしい。マリアが持っているであろう、権限を持たされている。
必要なら、其れなりの予算を使って、出先で使用人を雇い入れることも出来る。何しろ、あたしには前科があるからね。カナハのサウラを連れ帰ったっていう前科がね。
たぶん、奥様はあたしが自分の子供だって判っている。それに乗じて、あたしの我儘を通している自覚はある。たんなるメイドには出来ないことだから、狡いとは思うけれど。今は其れをありがたく利用させて貰う。




