マッキントッシュ邸を後にして 5
あたしは内心の思いを成るべく顔に出さないように、気を付けながらマッキントッシュ卿との話し合いを続ける。年齢的にも大夫離れている関係上、中々話が盛り上がることもない。何より、彼の方は、あたしがつかんだかもしれない事を知りたいのか、誘導しようとしているし。あたしの方は、何とかそれから逃げようとしているのだから、話しがかみ合うわけもない。
こう言った互いの、腹の探り合いみたいなことは、できれはノーサンキュウでと声を大きく言っておきたい物だ。あたしの視線が、ジェシカ・ハウスマンさんに向かっていることに気付いてくれたのか、彼女が話に割り込んでくれる。それでも話題を逸らすことが出来ないみたいだった。
侍女とは言っても、ドリーさんとは違い成人して、それほど経っていない彼女に取っても曲がりなりにも領主として、仕事を為ている人物を煙に巻くのは難しいみたいだ。これは逃げの一手しか無いかも知れないな。
護衛に来ているオーエンス隊の兵隊さんは、結構なベテランではあるけれど。彼らは、貴族同士の話し合いに割って入るようなことなんか出来ない。当然、下級使用人であるサリーさんは心配そうに眺めている。
既にアップル隊の隊員たちは、空の馬車を所定の処へ移動させようとして、寄ってきた私兵達と話しながら、移動してしまっている。レイの奴も、連中と一緒に向かっているから、文官としてより兵士として振る舞っているような気がする。実際兵士だったんだから、その辺りは仕方が無いのかも知れない。
いや、元王族なんだから、あたしの窮地に助け船を出してくれても良いと思う。あれで、攻略対象って言うんだから、ガッカリしてしまう。一応亡国の王子なんて設定は何処に行ってしまったんだ。
傍目には、偉いさん如何し、談笑しているように為見えないけれど。あたしは逃げ出してしまいたい。前世の記憶と此方での経験を足せば、其れなりの経験をしている。でもね、こう言った貴族同士の、腹の探り合いなんか、出来るわけが無いんだ。
背中を嫌な汗が流れている。此方の腹を探らせるわけにはいかない。感づかれれば、重要な証拠になりそうな物を隠滅される。此方としては、あたしが此所を離れている間に、証拠を掴む必要があるから。感づかれれば、其れで終わりになってしまう。これって、すっごい恥ずかしいけれど。子供らしく行動することにする。
「卿。申し訳ありません。わたし、一寸諸将を思い出してしまいました」
わざとらしく微笑みながら、軽く膝を曲げて挨拶を結構する。其れほど暑くもないのに、汗が噴き出しているから、結構リアルに見えるだろう。言葉の裏には、これからトイレに行くと載せているのだ。格好悪いけれど、その辺りは仕方が無い。これ以上長話をしていると、ウッカリ漏してしまうかも知れないからね。
「申し訳ありませんな。長話に付き合わせてしまいました」
「いえ、此方こそ申し訳ありません。お話は、後ほどに致しましょう」
あたしは、其れこそマッハの速度で踵を返す。そして、令嬢としては少しばかりはしたない速度で、屋敷の中へエスケープ為て行く。マリア御免。はしたないけれど、あたしに令嬢としての所作は無理だ。




