マッキントッシュ邸を後にして 4
マッキントッシュ卿が、ジェシカ・ハウスマンさんの防壁を破って、あたしに近付いてくる。彼の視線が何処か泳いでいる。
あたしが、彼の遣っている一寸した不正に気が付いたことに、気付いているのか、内心の動揺が見えるようだ。悪人にも善人にもなりきれない、普通の叔父さん。そう言う点では、この人は悪人ではないのだろう。良くいる小物臭を漂わせている、中ボス的キャラクターだ。
「良かったですね。どうやら橋の補修も終わったみたいで、これから堀に水を入れるのでしょう」
「はい。 水門を開けて、堀に水を入れる予定になっております」
あたしはなるべく明るい表情を作って、マッキントッシュ卿に声を掛ける。彼が気にしているのは、以前奥様が援助していた、資金を不正に流用していることに、あたしが気が付いているか、気になって仕方が無いのだろう。それ以外にも、色々と不味いことに手を染めているみたいだから、其れが発覚してしまうことが怖いんだろう。
恐らく結構いけないことをしているけれど。如何しても腹黒になれないから、こうしてバレバレな行動をしてしまう。こういう所を見ると、彼のお爺ちゃん領主様暗殺の犯人ではないのだろうし。若しかすると、橋の鋸事件にも関わってはいない。
柱に鋸を入れて、マッキントッシュ卿は何の得にもならないし。かえって、奥様に睨まれてしまうから、立場が揺らぐだろうし。これって、何処かの国からの揺さぶりなのかも知れないからね。
あたしが調べるだけでは、マッキントッシュ卿の不正の証拠となる書類は見付けることが出来なかった。何しろ、マッキントッシュ家の貴賓である、あたしはメイドのように気軽に歩き回れない。流石に其れでは、卿のプライベート空間に、忍び込むことは出来なかった。
ディックさんに依頼した、秘密の書類は未だに見付けられないでいる。昨日、ディックさんに会ったのだけれど、大夫酷い顔をしていた。彼の話だと、このマッキントッシュ家に勤めていた、影は排除されてしまい。中々、屋敷の中を調べることが難しくなってしまっているらしい。
その事を思い出すと、目の前に立つマッキントッシュ卿の顔をまじまじと見詰めてしまう。其れほど美形でもなく、ごく有り触れた感じのする叔父さんがそこにいた。
こんなにガバガバなのに、何で影を排除できたんだろう。あたしの知る限り、彼の臣下にいる人達は、そういった事に気の回る人ではなかった。爺さんの頃は、其れなりに経験を詰んで居るような人も、臣下に居たから、若しかするとその頃なら判るんだけど。
「処で、この御屋敷で働いていらっしゃる使用人の方たちは、皆お若いですね。先代の方の頃から、勤めている方たちはどうなさりました」
「代も変わりましたから、使用人も含めて若返らせたんですよ。父上に仕えていた者達は、皆かなりの高齢でしたから」
単純に、自分の言うことを聞く人間に入れ替えたんだ。引き継ぎ的なこともなく、全取っ替えしてしまうなんて、一寸信じられない気持ちになった。




