楽しいお使い 7
「商人のコルさんに用があってきたのだが。取り次いで貰えないだろうか」
「彼の気前の良いお客さんは、商談があるって言って、一緒に来た仲間と連れだって、出掛けていったよ。何だったら、あたしが話をしたおくけど」
黒い瞳をまん丸にしながら、答えてくれた引っ詰め髪の女は、それとなく視線で、ニッコリの懐を見詰めている。暗にチップを請求している。この程度では、チップを渡すわけにも行かない。それに、この名前も解らないような娘に、大事な手紙を預けるわけにも行かない。
「其れには及ばない。お帰りに成る時間を教えてくれれば、其れまで何処かで時間を潰していても良いと思っている」
「そうかい。処で、良く乾いたタオルがあるけれど。要るかい」
いつの間にか、遣ってきた若い下働きの男が、引っ詰め髪の女の、後ろから声を掛けてきた。この食事処で働く、下級従業員だろうか。短髪の黒髪にを無造作に、纏めている物の。何故か女物の、香水を使っている。右手には、良く使い古された、タオルとは名ばかりの布切れが握られている。そっれでも、肉刺に現れている物なのが、判るくらいには選択されているのが判る。
この女が、ニッコリの相手をしている間に、この下働きをしている少年が、洗濯し良く乾かされた、タオルを用意してきたのだろう。中々抜け目のない対応だ。
「ありがとう。助かるよ」
ニッコリは、苦笑を浮かべて乾いたタオルを受け取る。こう言う対応をされたなら、いわゆる心付けを渡さないわけにはいかない。店の中を濡らしたくないだけなのかも知れないが、其れでもありがたいことには違いが無かった。
懐から兼ね袋を取り出し、銅貨を二枚渡す。勿論店に入る前に、声を掛けてきた女にも渡しておく。流石に、御嬢様に貰った半銀貨を使う気にはならない。あれは、お土産に使うつもりでいるのだから。
実に魅力的な、笑顔で引っ詰め髪の女は銅貨を受け取る。結構もてるのではないかと初めて思った。笑えば美少女にも見えるのだから、不思議な物だ。
「お客さんは、たぶん夕方には一端お帰りに成るはずよ。この店で食事を取ってから、また夜の商談に出掛けるのが常だから。あの人も、相当な好き者らしくて、この辺りでは一番安い娼館の方に向かっていくのを目撃した奴がいたんだ」
ニッコリは掌で、弄んでいた銅貨を彼女の渡した。余り此所の従業員の教育は宜しくない。この宿は貴族が泊るような格ではないから、この程度で十分なんだろう。
「そうか。助かるよ。それじゃ、夕方にもう一度戻ってくるから、コルさんにそう伝えておいてくれ」
「判ったよ。あんたいい人だね。今度来るときには、笑顔でお迎えさせていただきますね」




