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山猫は月夜に笑う 呪われた双子の悪役令嬢に転生しちゃったよ  作者: あの1号


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楽しいお使い 2

 ニッコリは支給品の、コートについているフードを目深に被ると、地面を叩く雨のなかを、歩みを進めていた。街行く人の数は其れほど多くない。矢張り雨の中を、出歩こうとは思わないのだろう。勿論、人通りがないわけではない。天気が悪かろうと、仕事を熟さなければ行けない人間は、結構多く居る。


 この支給品のコートは、厚手で僅かな間なら、水を弾く優れものだ。ただ、残念なことは少し重たい。皮鎧の類いより、軽くて耐久性に優れている。剣先が謝って、触れた程度なら、刃を通さない。


 単なるお使いに、正式な鎧を着けて、出歩くような物でも無い。それに、彼の主な目的というのが、嫁と餓鬼にお土産を買い求めることだった。できの良い木製のカップと木造の玩具でも密乞えば、喜んで貰えるかも知れない。


 今回の遠征に出発するに当たって、嫁と喧嘩になった。結婚記念日をまたいでの遠征だ。兵隊の辛い事情は、理解してくれているとは思うけれど。だからと言って、気遣いをしておかないって手はない。


 彼の給料は、決して低くはなかったけれど。五人の餓鬼と嫁を食わすのは、結構骨が折れることだった。使える金は、少ないけれど気遣うだけでもましだろうと思う。


 これが結婚前なら、同僚たちと夜の街へ出掛けて、ぱぁっと使っていただろう。明日どうなるか解らない身だ。明日死んでも、悔いを残さないために遊ぶ。酒と女と博打、ありとあらゆる悪いことを遣った。まあ、運良く発覚する前に、真っ当な道に引き戻してくれる、いい女に会えたことは良かったと思っている。


 一緒に遊んでいた連中の、半分が地面の下に眠っている。連中は運が無かった。こうして、餓鬼のためにお土産を買う姿を見たら、何て言うだろうなって思っている。


 ニッコリは視線を感じて、足を止めた。屋敷を出てから、後を付けている者が居る。其れも複数。この雨のなかご苦労なことだとは思うけれど。彼らの技術は、お話になら無い物だ。


 複数での尾行なら、もう少し工夫したら良いのに。其れが彼の感想だった。目標に視線を向けてはならない。其れが、自分のような兵士相手にするなら、なおのことだ。


 マッキントッシュ卿の手の者か、正式な兵隊では無さそうだ。街のごろつきを使って、密偵の様なことをさせているのか。あるいは、此方が接触をする人間の内定と言ったところか。流石に、力ずくで手紙を見ようとは思わないだろう。明らかな敵対行為には違いないのだから。


 あるいは、奴らは金で雇われた、どこぞの有象無象で、簡単に切れるような人間。本当に、この町は物騒になっているようだ。


 足を市場の方へ向ける。実は既に、ポルが泊っている跳び狐亭の、前を通り過ぎる。此所でヘマをするわけにはいかない。此方の動きを把握されることは、ナーラダのリコ嬢にとって不都合なことだろうから。


 先の戦争の経験者が、輜重隊の殆どだ。いわば、真っ先に狙われる物資を運ぶ専門家集団だ。ニッコリはその中でも、いわば脂がのりきった、現役の兵隊だ。


 手紙を運ぶ任務とは言え、これは必ず届けなければならない仕事だ。請け負った以上、必ず届ける。ましてや、相手はどう見ても素人集団なのだから。







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