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山猫は月夜に笑う 呪われた双子の悪役令嬢に転生しちゃったよ  作者: あの1号


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スプーン一杯分の不正と一寸したお使い 3

 サリーさんに手伝って貰いながら、紺色のワンピースを着込み。部屋を出ることが出来るようになる頃、まるで図ったように、ジェシカ・ハウスマンさんが部屋の扉を叩く。この辺りは、最近全く同じ様に物事が進むようになってきた。


 サリーさんが、何時ものようにハウスマンさんを部屋に招き入れる。この辺りは完璧なルーチンワークになってきている。何処かから、のぞき見をしている視線があれば、全く同じように見えるだろう。


「お早う御座います。今日のご予定に変更は御座いませんか」


 この質問も、あたしがこの旅に出てから、毎日の日課になっている。良くも一言一句漏さず同じ質問をしてくるもんだと思う。


 因みに、サリーさんとハウスマンさんの格好は、基本的に同じである。役割が違うから、お仕着せのメイド服とは言っても、布地の善し悪しも違うから、その辺りは仕方が無いことなんだろう。


 メイド服は、いわゆる作業服だから、それほど良い物でも無いからね。汚れても、、其れほど気にしなくてもいい服って言うことに成る。


 侍女の仕事は、主の補佐的要素が強くて、メイドたちに仕事を割り振るのが主な仕事になる。何より、侍女は貴族令嬢が成る物で、下位使用人であるメイドと同じ仕事をするわけが無い。その代わり、いざとなったら主を守るために命をかけるようになる。その為に、彼女達は懐剣を持っていたりする。


 此所には、デニム家のメイドは一人だけしか居ないし。侍女だって、ジェシカ・ハウスマンさんの一人だけだ。一応、マッキントッシュ家に勤めるメイドも侍女も居るのだけれど。あたしに直接接触する者は、基本的にサリーさんとハウスマンさんのふたりだけで。マッキントッシュ家の使用人さん達は、直接接触しないようになっている。勿論、公務に関してはその限りではない。それでも、プライベート空間に関しては、キッチリ分けられている。


 何しろ、あたしはなんちゃってマリアだから、成るべくなら露出は控えるに越したことが無いんだろう。こう考えると、本当に悪役令嬢マリアの奴は上手く立ち回っていたんだなって思う。何しろ、彼の奥様ですら騙し仰せていたのだから。


 暫く考えを纏めると、あたしは徐に言葉を口にする。何故かこの人たちは、あたしの言うことをちゃんと聞こうとする。本来なら、デニム家に、派遣されている、この集団の中で、最も位が高いのは男爵令嬢である、ジェシカ・ハウスマンさんだ。本来なら、彼女が判断をして、命令を出しても良いはずなのに、必ずあたしにお伺いを立ててくる。


 建前として、マリア・ド・デニム伯爵令嬢である、このあたしがこの集団のトップだからだけど。それに為たって、単なるなんちゃってマリアを立てる必要なんか無いと思う。


 実は、あたしがマリア・ド・デニム伯爵令嬢だって、皆思っているなんて事無いよね。レイは、あたしがナーラダのリコだって知っているけれど。他の人達は、彼のマリア・ド・デニム伯爵令嬢だって思っていたりしないよね。最近は、一寸怖くなっても来ている。あたしの判断ミスで、ドツボにはまったら困るんじゃないかと思う。


 そんなことを考えながらも、今日の予定を告げた。一日お休みにすることにした。見せても良い書類の類いは、全て見ているから、秘密の書類の類いを見つけ出さなければならない。


「其れと、ボレガ商会のコルさんに、手紙を持って行ってくれると、有難いかな」

「畏まりました。なにかお解りになりましたか」

「色々とね。それでも、今回のトラブルに繋がるような物でも無いのですけれど」

「其れでは、お手紙については、オーベルジュ隊の若手にでも行ってもらいましょうか」

「そうね。そうして貰えるかしら。急いで手紙を書きますから宜しくお願いしますね」


 未だ朝飯前なんだけど。一仕事しなければならなくなってしまった。ジェシカ・ハウスマンの視線が怖い。





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