スプーン一杯分の不正と一寸したお使い
屋根を叩く雨音が聞こえる。どうやら本格的に雨が降り出したみたいだ。
これからは、一雨ごとに暖かくなる。と言うか暑くなるって言うのが、本当のところだろう。春から夏へ、季節が進んで行く。この地方には、梅雨のような物は無い。比較的、空気も澄んでいて、乾燥しているせいか、夏は意外に過ごしやすい。だからと言って、冬が物凄く冷えるわけでも無いから、このマルーン邦は良い感じの場所なんだと思っている。
あたしは天蓋付きのベットから起き出して、ゆっくりと背を伸ばすと、くしゃくしゃになった栗色の髪を、手で撫付けながら起き出した。本音を言えば、もう少し眠っていたい。流石に、ハードだったから、疲れが身体の芯に蓄積しているような気がしている。
昨夜も遅くまで、書類仕事を為ていた。あまりにも、頑張りすぎたから。彼の一晩で、マッキントッシュ卿が見せても良いと、判断している書類の類いは、全て目を通すことが出来た。
そこから判ったことは、不明なお金の流れがあることと。かなり公金が、胡乱なことに使われていることくらいだ。だからと言って、其れを咎めることは出来ない。何より、領主というのは、その領地の中では、結構大きな権限を許されている。
いわば領地内では、領主の権限は絶大な物に成る。領主が法律を作り、税を徴収する。領主が黒と言えば、白い物でも黒と言うことに成る。其れだけの権力を持っている。
その権力を維持するための戦力と、経済力が物を言う。地方領主との間に躱されている、強い信頼関係こそが、邦を形作っているらしい。実はあんまりそう言うことは理解していないんだ。何しろ、結構な不良で、真面に授業も受けていなかったからね。教科書の端に、せっせとパラパラ漫画を書いていたくらいだしね。
マッキントッシュ卿が、自分の言うことを聞く兵隊を大いそぎで、集めて居るのもその一巻だろう。其れが、そんなに成功はしていないけれども。彼の命令を素直に聞いてくれる戦力には違いないだろう。
ただ、あれじゃ父ちゃん相手に、束に成って掛かったところで、あんまり持たないだろうなって思っている。この間お邪魔した、子爵の処の私兵達とぶつかったら、あっさり総崩れするんじゃないかと思う。
何しろ全ての兵隊が、新兵みたいで、訓練を指導する教官的な人も居ないから、中々上手く行っていないみたいだ。ぶっちゃければ、民兵程度の集団って感じだ。後ろから、矢で射られそうな気がするくらい、練度も低くて、街のごろつきと其れほど違いが無いように見える。
其れと、気になったことは、兵役の強化を法制化していることだ。つまり、ある程度の年齢になった、全ての領民に強制的に兵役につかせる。そんなことをすれば、働き手を失って領内は、途端に食糧難に陥ることは明白で。たいして、食料の備蓄もされていない状態で、何か暴発すれば、偉いことに陥るのは、火を見るより明らかだと思う。
何しろ、デニム家からの支援で、ようやく保たれている状態で。そんなことをすれば、自分の首を絞める結果にしか成らない。
何処かで戦争を目論んでいるんじゃ無いかって、嫌な予感めいた物が、あたしの脳裏に浮かんだ。ただ、あたしの知る限りこれから、そう言う大きな動きがあるとも思えない。マッキントッシュ卿が内戦を目論んだとしても、彼の持っている戦力では、如何することも出来はしないのだから。




