訳あり令嬢 8
カップの中のお茶が無くなり。お互いに仕事モードに切り替わる気配がし始めた頃。思い切って、あたしの我儘を口にする。
「ねえ。バートランドさん、暫くの間手伝ってくれないかしら」
「未だ書類が残っておりますの。レイナさんが許可して頂けるのでしたら、喜んで承りますわ」
新たな書類に目を通しながら、バートランドさんが答える。
「それでも、この調子ならあと一両日中には、終わるのでは無いでしょうか。どちらにしても、今の私ではあちらで、仕事の出来ない身体ですから、こうしてお金にすることが出来るのでしたら、大変有難くは思っております」
本当にお仕事モードに成りながら、バートランドさんがまるで貴族令嬢のような言葉遣いをしてくる。集中が高まってきているのだろう。ああして、書類を読みながら、所々に小さく切った紙切れを入れていく。其処の処に書かれている内容が、気になる物なのだろう。どちらかというと、この人は計算の方が得意なのだろうか。
筆算で、あたしとは違い時間は掛かるけれど。間違いの無い仕事ぶりだった。そう言えば、この人は元々男爵家の長女だったか。其れも、このマッキントッシュ家に仕える、文官の娘だっただろうか。
ディックさんが持ってきた、クリス・バートランドさんの身上調査書に書かれていたっけ。因みに、彼女を買った奴隷商と一番始めに手に入れた、貴族家の名前も書いてあった。子爵家の人ではあったけれど。僅か数日で転売しているところを見ると、其れなりにいけない遊びに使ったのだろう。そう言う事は聞くわけには行かないかな。
「この分だと、裏帳簿が有ると思うのね。其れとごっそりと行方が判らなくなっている、お金があるのが気になるのよね。それに、時期も悪すぎると思うのね」
「書類を精査すると判りますね。父が関わっていた頃は、其処まで可笑しなお金の動きが無いのに。父が関わらなくなってからは、其れこそ極端に悪くなっていますから」
辛そうな表情をして、バートランドさんが2通の書類を、あたしに見せてきた。その日付は、此所の先代領主が亡くなった頃の物と、最近の物だった。明らかに筆跡の違う書類は、其れだけでも明らかだった。古い書類に書き込まれている、責任制作者の名前にはミハル・バートランドという著名が書かれている。
あたしが読み込んでいた書類の、制作者は何人かの物が書き上げた物のようで。複数人の筆跡で書かれていた。彼女が見せてくれた、書類に一人の人間が通しで書いている物のようで、非常に判りやすく纏められている。たぶん、彼女の父親という人は実直で、仕事の出来る人だったのだろう。
其れはバートランドさんの人となりを見ていれば、何となく判るような気がする。大概は、あんな仕事を為ていれば、可笑しくなってしまっていても不思議が無い。
其れなのに、彼女の姿勢には好感を感じる。若しかすると、其れほど酷い目には遭っていないのかも知れない。ま、あたしとしてはちゃんと仕事を来為してくれれば、何の問題にもならないんだけれどもね。
兎に角、近場のことは彼のお色気お化けの、レイナさんに相談でもしてみようか。どうやって話しを通すかだけれど。手紙を書いて、来て貰うか。誰に持たせれば、問題になりにくいか、一緒に来ている兵隊達の、顔を思い浮かべる。父ちゃんの小隊の連中なら、本当に気軽にお願いできるんだけれども。今回は、違うから難しい。