訳あり令嬢 6
「ねえ。リコさん。そんな顔しないでちょうだい。好きであそこに勤めているわけでも無いけれど。奴隷まで落ちてしまった女が、幸せに成れるとは思っていないし。それでも、今の持ち主には感謝しているのだから」
まるで諦めきったような表情で、バートランドさんが言った。少しだけれど、彼女が身体を動かすと、血の臭いがするような気がした。これは女の宿命だから、仕方が無いのだけれど。せめて、ナプキンくらいは何とかしたい気がする。何しろ、あたしにも切実な問題だしね。
せめてガーゼが有れば、相当楽になるはず。帰ったら、マリアに相談してみよう。なんと言ったって、彼女だって他人事じゃ無いのだから。
バートランドさんは、これまでどのような経験をしてきたのだろう。貴族の令嬢が、あんな所に居ること自体、あり得ないことだ。もしお家が没ら君の憂き目に遭ったとして、いわゆる神殿に入るか。普通に関係の深かった、貴族の元に奉公に入るようにして、難を逃れる物なのに。其れすらも適わなかったって言うことだから。
「良くこれだけの物を読み此所なせますね。普通の貴族の娘でも、これだけの書類を理解できなかったと思いますよ。それに、複数の横領の痕跡を見付けているなんて、本当に十三歳の村娘なんですか。それとも、本当は何処かのお姫様だなんていわないわよね」
バートランドさんが、これまでの重たい話題を嫌うように、話題を変えてくる。
「あたしの父ちゃんが、元騎士だったからね。その関係で、結構厳しく育てられたから」
正直これは嘘じゃ無い。これはマリアに聞いたのだけれど。父ちゃんはマルーン邦で最も腕の立つ、奥様付きの護衛騎士だったそうで。あたしが産まれたときに、騎士職を辞し。領都デイロウを出奔した。其れが無ければ、今頃は私兵団の団長を務めていたかも知れないそうだ。
父ちゃんが、あたしに令嬢としての教育を施したのは、自分の妻と子供を失った、医者を囲い込んだ、デニム家に対する復讐のためだった。
あたしをマリアといれ代えて、デニム家への復讐を考えていた。単純に其れだけを考えていたらしいのだけれど。次第に、あたしが可愛くなってきたらしく。復讐を止めて、大人しく気質の猟師として暮らそうとしていたらしい。
あたしが望むなら、元の立場に戻っても良いように、教育してくれていたような気がしている。憎い対象だっただろうに、あたしに良くしてくれて、大事に育ててくれたんだ。その辺りは有難く思っている。




