訳あり令嬢 5
こう言う社会がある以上。どうにも成らないことだって、今のあたしには理解できている。だって、この世界で生きて結構長く生活しているからね。
あたしは、父ちゃんに育てられたから。そういった事を見聞きするだけで、其れほど多くの奴隷の存在を知らない。それでも、奴隷は一定数いる。流石に、御屋敷に奴隷は居ないけれど。
奥様の方針で、奴隷を使っていないだけで、あの人が奴隷制度に反対しているわけでも無い。其れは判る。だって、結局この影の拠点の一つで、夜のお相手をする奴隷を使っているのだから。
少し、あの人のイメージが違ってきたな。奴隷を持つことに、反対していると思っていたんだけどな。どうして、こんな事をしているんだろう。あの人だって、女だからこう言う事をするのが嫌なんだろうと思っていたんだけど。
この世界は、あたしが昔生きていた世の中とは全く違う。常識も社会の体制も、乙女ゲームさくらいろのきみに・・・の世界だと、思っては居ても、何だか恐ろしくシビアで、厳しい世界だ。
彼の乙女ゲームで、描かれているのは、殆ど王都での貴族階級同士の、恋愛物語だ。後半になるに従って、絶望的な戦争に突入していくけれど。それでも、描かれているのは、そう言った混乱の中で、健気に生きていこうとするヒロインちゃんの物語だ。
その背景にだって、それぞれの生きている人間の生活がある。その全部の人を良く出来るわけでも無い。あたしはそんなチート能力を持っていない。悪役令嬢マリアの権力無しの、純粋な身体に備わった物だけだ。それでも、普通に考えたら出鱈目な能力なんだけれど。今目の前で、他に素晴らしい能力があるにも拘わらず。身体を売っているだけなのが、何て言って良いか判らない気がする。
これって、考えようによっては、悪い話しでも無いのかも知れない。奴隷なら、お金で解決できる。それに、この人を所有しているのは、リントンさんの子飼いの人達だ。
お金の出所は、デニム家って言うことに成る。あそこで働いている娼婦の人達の所有者は、遡れば奥様と言うことに成る。ぶっちゃければ、リントンさんの下部組織だ。
勿論、彼の娼館擬きがたぶん必要なんだろうから、全部の娼婦を何とかしろとも言えないけれど。今、目の前で微笑んでいる人ぐらいはどうにか出来るような気がする。
「あそこの給金は、其れなりに良いので、自分を買い戻せる可能性もありますし。何より、レイナさんもいい人ですしね」
「どれくらいで、買い戻すことが出来るの」
「あと、三年くらい頑張れば何とか出来るかも知れませんね」
「……」
三年。娼婦を三年続ける。
娼婦をそんなに長いこと続ける。その間に、どれだけの苦痛を経験することになるのだろう。考えることが出来るのは、一日の間に何人の客を取るのかによるだろうけれど。それでも、大変な重労働だ。そして、病気や妊娠のことを考えれば、そんなに長いこと続ければ、女としては擦り切れてしまっても、可笑しくない。
お金が欲しくて、アルバイト的に売りを為て居る子を知っていたけれど。其れとは、全く違う過酷な労働だ。




