訳あり令嬢 4
「好きではありませんよ」
あたしの不躾な質問に、クリス・バートランドさんが怒ることも無く答える。勿論当たり前の、答えが返ってくる。貴族の令嬢にとって、こう言った重労働が良いわけが無い。その割にあんまり良くも無い報酬しか貰えないから、出来れば止めていと思っているだろう。
「これは聞いても良い物か、判らないのだけれど。もし良かったら答えてくれないかしら」
「……」
バートランドさんの表情が陰る。手元に置かれた、ランプの明りが彼女の端正な顔を少し不気味に見せている。
「何で好きでも無いことを為ているの」
「普通に働いていたのでは、自分を買い戻すことが出来ないからです」
「貴女奴隷なの」
この世界には、乙女ゲームさくらいろのきみに・・・で、描かれていない色々なことがある。その一つが、あっちの世界でも在った奴隷制度だ。市民が普通に持っている、基本的人権を制限されている人達だ。
犯罪奴隷や借金の形に、売られた人達が結構いる。生きるために、家族を売り払うことで、生活のたしにする貧しい者達が居る。それでも、元貴族の御令嬢がこう言った仕事に従事することは、中々無いことだった。恐らく、本当に珍しいことだろう。
実際に、あたしが知っている奴隷は、以外にも結構良い生活をしている。彼は、貴族の侍従をしていて。一生懸命、馬の後を追いかけて、粗相の後片付けをしていた。
それ以外には、農奴の人達くらいかな。ただ、農奴に成ったら、先ず市民権を買い戻す事なんか出来ない。どうやったって、自分を買い戻せるだけのお金なんか貯めることなんか出来ないのだから。
「私の所有者は都合三回変わっています。その中でも、今の持ち主は比較的真面ですね。彼の仕事なら、自分を買い戻すことが出来るかも知れませんから」
借金の形に、市民権を売り渡して、奴隷に落ちる人は一定以上居る。何があったのか判らないけれど。一番可能性があるのは、借金の形に売られることだ。それでも、普通なら貴族の令嬢と言うだけで、そんなことに成るようなことは考えにくいことだ。
奴隷という物は、富裕層の資産だ。その資産を、どのように使い利益を上げるか。其れこそが、持ち主の力量を表す物に成る。
擦り切れるまで、使い潰すか。新たな資産を生み出す種とするか。それとも、投棄の品物として、売り買いする物とするか。
あたしもこの邦で、昔を思い出してから、既に8年くらい経っている。世の中の事は、賢者様に教えて貰っている。こう言った、やるせない現実についても、学んで知っている。この人は、いわゆる投棄の対象として、売り出されていたところを、領都ベレタの影の人達に買われたって言うことだ。
もしかして、あそこで働いている娼婦の人達は、全部奴隷なんだろう。正直堪らないことだ。




