鎮魂の時 5
村の衆が全員少しずつ墓に土を入れ終わると、村の中で体格の良い男衆が本格的に埋め始める。そうなると仕事は早い。少し高めに土を集めると、それぞれの名が書かれた石盤を置く。其れがここの墓の形であった。いずれあたしも死んだらそう言う形で、土に返る事になる。あたしのお母ちゃんもこの教会の墓地に埋葬されている。ここより少し離れた場所になるけれど。
少し見ないなと思ったら、父ちゃんが母ちゃんの墓のある方からやって来た。相変わらずムスッとした表情からは、機嫌が良いのか悪いのか他人には解りにくい代物だった。機嫌は良くはないが、悪くもなさそうだ。リタのことを連れて行きたいと言ったら、言うことを聴いてはくれそうも無い。でも、村長さんにリタの面倒を見てくれるように、言ってはくれるだろう。
「母ちゃんに話しに行ってきたの?」
「ああ。此れから暫くは来られないとも言って置いた。あいつなら解ってくれるとは思うが、一応断っておかなければ怒りそうだからな」
父ちゃんは、母ちゃんを最も愛していたみたいなんだよね。此れでもう少し笑い顔に愛嬌があれば、良い感じだとは思う。だからとは言っても、父ちゃんのおよめさんになりたいとは思わないけどね。
「あたしの分も言っといてくれた」
「いや。おまえはおまえで言っておけ。そうすることが大事なことだぞ」
あたしの頭にそっと触れてくる。その大きくて硬い手は、子供のあたしにとっては安心を呉れる物だ。少なくとも信頼はしている手だ。
この人は、あたしが母ちゃんと父ちゃんの子供だと思っていると、未だに信じている。真逆アリス・ド・デニム伯爵夫人の娘だと気付いているとは思っていない。捨子だったことは秘密にしていたらしく、この村の事情通のおばちゃん達も知らないと言っていた。
もしかすると、村ぐるみで父ちゃんに協力して、一緒になってあたしに嘘をつき通しているのかも知れ無いけれど。其れは何となく優しい嘘のような気がして、ずっと騙されていたいと思う。
この村の人たちなら、リタを助けてくれるかも知れないけれど、でも今は普段と違うから、難しいかも知れない。なんと言っても、子供を育てることは手間だしお金も掛るから、簡単にはいかないだろう。孤児院のような物は、この村には存在しなかった。
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