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山猫は月夜に笑う 呪われた双子の悪役令嬢に転生しちゃったよ  作者: あの1号


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クリス・バートランドの憂鬱 8

「本当に助かっているわ。貴女が居なければ、ここまで進めることが出来なかったかも知れないし」

「いえ。その様なことはありません。私では、其れほどお役に立てませんで。本当は、レイナさんの方が適任だったかも知れないのに」


 私は本音を交えて、言葉を返す。レイナさんは、領都ベレタの娼館擬きで、最も腕の立つ、男から情報を引き出すことの旨い人だ。元は、何処かの女官を為て居た人で、私と同じように、事情があってあそこに流れ着いた人だ。


 彼女とは、其れほど長く付き合っても居ないので、その事情については聴きもしなかった。ああいった仕事を為ている以上、誰かに話せるようなことでも無いのだろうと思っている。


「処で、食堂に行って食事しようかと思っているけれど。貴女は食事は如何する」


 ナーラダのリコ様が、立ち上がり軽く身体を動かしながら尋ねてきた。今の彼女は、普通に平民の娘のようで、すこし微笑ましく感じる。こう言った仕草は、貴族令嬢なら決してしない。側に侍女もいないし、他人の目と言えるのは私だけだ。だから、安心して素を出しているのかも知れない。


「出来れば、此所で食事にしたいです。成るべくなら、顔を見せたくはありませんし。それに、今の私は女として、辛い期間に入っておりますので、出来れば殿方の前には出たく在りません」


 これは本音だ。この間は、自室に籠もって時間が経つのをじっと待つのが、何時もの生活だ。よほど気を付けなければ、血を吸った布切れを落として、大変恥ずかしい思いをすることに成る。


 ナーラダのリコ様は、確か十三歳だっただろうか。未だに月の物に苦しめられたことが無いから、理解できないのだろう。


「御免。この部屋に食事を持ってくるようにするね」


 困り顔を為て居たことに気がついたのか、謝ってくれる。そして、私のために、食事を此所でするようにしてくれるようだ。


 テーブルの端の置かれた、小さなベルを軽く三回ならす。其れが侍女を呼ぶ呼び鈴である。この子は其れを躊躇なくならしては、ジェシカ・ハウスマン様を呼び出すのだ。出来れば、彼女にも遭いたくは無いのだけれど。


 私の過去を知る、彼女の視線にさらされるのは辛かった。没落し今では、世間の最底辺で生きている。其れも、とても汚い仕事を引き受けている。彼女がどう思ってるのか、思えば辛くなる。


 レイナさんのように、信念を持って生きているわけでも無く。仕方が無く、こうして生きているだけ。逃げ出すことも出来ずに、言われるままに汚れ仕事を為ているだけ。それでも、お腹は空くし其れなりのお金は欲しい。


 貴族令嬢だった頃の矜持など、何処かに忘れてしまった。穢されるくらいなら、命を儚くするようなことなど、私には出来なかった。足を折られ、その痛みで、抵抗すら出来なかった。


 殆ど時間をおかずに、ジェシカ・ハウスマン様が扉をノックする。ナーラダのリコ様が、そのノックに応える。


 ジェシカ・ハウスマン様が、姿勢良の良い姿が現れる。彼女の黒い瞳が、私の方を向いている。何か言いたそうにしてるのだけれど、私はその視線に耐えられない。


「ハウスマンさん。此所に食事を要してくれないかしら。勿論、バートランドの分もお願いね」

「畏まりました。御嬢様、その様に手配いたします。進捗はいかがでしょうか?」

「そうね。バートランドさんのお陰で、大夫助かっているわ。不可解なお金の流れは見付けたわ。其れが、何を意味するのかまでは解らないけれど。何処かに裏帳簿的な物があると思うの。それに、この増税の仕方は可笑しいと思うのよね」


 ナーラダのリコ様の言葉を聴くと、ジェシカ・ハウスマン様は軽く膝を曲げると、何処か貴人に対するように、部屋から出て行く。





 


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