表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
山猫は月夜に笑う 呪われた双子の悪役令嬢に転生しちゃったよ  作者: あの1号


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1122/1215

クリス・バートランドの憂鬱 3

 私とディックは、マッキントッシュ邸の小部屋に通されて、しばし待つように言われた。いわゆる面会者のための待機所だ。部屋の中に置かれた、備品の様子から、此所は平民が比較的位の低い役人と、面会するための場所だと、察することが出来る。

 木の長椅子に並んで座りながら、実に気まずい時間を過ごさなければならない。隣には、別の部署とは言え上司と言える人間が居る。其れも、これまで殆ど話したことすら無い人だ。お客相手なら、それでも其れほど困らないのに、こう言った状況で、何を話していたら良いのだろう。

 この分だと、面会できるのは御嬢様本人とは会えずに、帰る事になるかも知れない。私としては、その方が有難い。出来るなら、こんな状態でいわゆる文官の真似事的なことなんかしたくも無い。御部屋でぼんやりしながら、思い出したように刺繍をしていた方が良い。得に月の物があるときには……。

 木戸は開けられており。風が心地良い。少し空気に湿り気が感じられるから、若しかすると曇ってくるかも知れない。左足が少し疼いて居る、明日辺り雨が降ることになるかも知れない。その事を考えると、私の気持ちは憂鬱な気持ちに染め上げられる。

 俄に扉の外が、騒がしくなった。誰かが、口論をしながら歩いてくるのが判る。聞き取れる声から、昨夜レイナさんを訪ねてきた、お嬢さんと彼女の侍女との言い争いのように聞こえる。

 侍女の方が、私を雇うことに対して、反対しているように聞こえた。出来ることなら、彼女には頑張って貰いたい。

 本当のことを言えば、彼の娼館擬きで働くより。僅かな間でも、御屋敷で働けた方が、身体が楽だ。彼の仕事は、端で見るより重労働で。精神的にも、キツい物がある。

 扉の前で、足が止まる。向こうでも、此方の様子を覗っているようだ。

 扉を軽くノックされた。

 ディックさんが応える。私は、彼の横顔に視線を向ける。気を遣ってくれているのか、端正な横顔が笑顔を浮かべていた。それとも、彼の言う姫様に対しての笑顔だろうか。

 私たちは、目上の者に会う当然の決まり事に則って。椅子から立ち上がり、私は扉の前に向かうべく、歩き出そうとするけれど。其れよりも早く、扉が押し開かれる。

 はたして、そこに居たのは知っている顔だった。

 赤毛のショートカット、雀斑が鏤められた可愛らしい女性。ジェシカ・ハウスマン男爵令嬢。

 私の記憶にある彼女は、仕立ての良いワンピースを纏い。男の子達と、其れこそ真っ黒になりながら、遊び歩いていた事を知っている。真逆こんな処で、再会することになろうとは思いもよらなかった。

 今の彼女は、これまた仕立ての良いメイド服を着て居る。その事から、今の彼女はデニム家の侍女を為て居ることが解る。出来ることなら、こんな処で会いたくは無かった。自分の今していることを、彼女に知られることは、大夫擦り切れてしまった、自尊心を更に傷つける。

 ジェシカ・ハウスマン様の視線が、私の顔に突き刺さる。今の彼女の顔からは、驚きと困惑の思いがない交ぜになった、何とも表現に困る表情。本当に、遭いたくは無かった。


「クリス・バートランド様」


 ジェシカ・ハウスマン様の口元が、そんな言葉を紡ぎ出している。

 私の心が、潰れてしまいそうになる言葉だ。今の私は、そう呼ばれるような人間では無い。

 



 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ